第77章 裏切り

黒崎悠真は、ふっと眉を上げた。

これまで桐生冬紀は、いつだって距離感のわかる女だった。

一緒に食事をしても、コーヒーを飲んでも。仕草ひとつ、言葉ひとつに、相手が勘違いする余地を残さない。

そんな彼女が、初めてこうして彼の手を掴んでいる。まるで溺れた人間が、唯一の流木にしがみつくみたいに。

黒崎悠真は彼女を見つめ、瞳の奥にうっすら滲む赤みを見つけた。

胸が勝手にほどける。彼は声にならないため息を落とし、少し身を屈めて、やわらかく尋ねる。

「桐生さん、どうしたんですか。何かあったんですか?」

潮風に吹かれながら、桐生冬紀は後頭部の鈍い痛みに耐えるように、脈絡もなく口にした。

「黒...

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