第86章 仇敵

一方――。

榎本社長が「腰が痛い」は口実にすぎなかった。噂を聞きつけるやいなや自室へ戻り、秘書にいきなり切り出す。

「時哉は本当に船に乗ったのか?」

「よく似た後ろ姿を見たそうです。ただ、確信は持てないと」

榎本社長は怒りのあまり、かえって笑ってしまう。

「自分の家の宴席に来るのに、コソコソするとはな。ここに、あいつが顔を出せない理由でもあるのか? まったく……母親のほうに変な躾をされやがって」

苛立ちを押し殺すように言い切った。

「人を出せ。探せ」

「かしこまりました」

榎本社長は一拍置いてから、眉間に皺を寄せる。

「待て。内々に探せ。騒ぎにするな」

万が一――時哉に...

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