第92章 怒り

桐生冬紀は御堂怜央のことを知り尽くしている。だから、今の彼が最悪の機嫌であることも分かった。

――怒っている。しかも、本気で。

御堂怜央が本当に腹を立てることは滅多にない。立場が立場だ。欲しいものは手に入るし、気に入らないものがあれば一言命じればいい。あとは誰かが、跡形もなく片づけてくれる。

今日は、その数少ない例外だった。

桐生冬紀は呼びかける。

「御堂社長」

次の瞬間、御堂怜央が彼女の手首を掴み、乱れたベッドから引きずり起こした。

容赦がない。力が強すぎて、支えを失った冬紀の身体がそのまま彼の胸にぶつかる。

香水はつけない男なのに、匂いがある。冬の雪みたいな、冷たく澄んだ...

ログインして続きを読む