第52章

ひんやりとした唇が、ゆっくりと――あの柔らかく白い頬へ重なる。

もし朝比奈澪が目を覚ましていたなら、きっと気づいたはずだ。

その唇が、わずかに震えていたことに。

広い寝室に、男の低い声が静かに落ちた。甘く、抗いがたい色を帯びて。

「朝比奈澪……たぶん俺は、最初からずっと自分勝手だった」

「おまえが俺の胸に飛び込んできた瞬間から、手放すつもりなんて一度もない」

彼女がゆっくり大人になるのを待つこともできる。

恋が何なのか、理解するまで時間をやることもできる。

だが――彼が生きている限り。

朝比奈澪に「別の選択肢」など、二度と残さない。

男は身を伏せ、眠る少女を瞬きもせず見つ...

ログインして続きを読む