第68章

朝比奈澪に嫌われるかもしれない――そう思っただけで、神宮寺玲央の胸の奥が、つきんと痛んだ。

玲央は視線を落とし、指先でそっと胸元をなぞる。漆黒の瞳に、底の見えない陰がよぎった。

早川隼人が社長室へ足を踏み入れた瞬間、肌を刺すような冷気に包まれた。

「……さむっ」

反射的に肩をすくめ、慌ててデスクへ歩み寄る。

「爷。神崎怜司の資料、全件そろいました。細かいところまで全部です。それと――」

早川は、玲央の険しい横顔をちらりと盗み見た。言い淀む。

玲央が顔を上げる。瞳が細くなり、凍てつく視線が早川を射抜いた。

「それと、何だ」

「……その、神崎怜司と奥様の間に、どうも過去に一つ―...

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