第88章

朝のあの転倒は、彼女が文字どおり地面に叩きつけられたものだった。

傷口こそ見えない。けれど痛みだけが、しつこく身体の奥に残り続けている。

神宮寺美琴の表情が揺れたのを見て、朝比奈澪はこらえきれないように、くすりと笑った。

「神宮寺お嬢さん。あのイブニングドレスは、うちの旦那が自分で稼いだお金で買ってくれたの。妬ましいなら、おじいさまに聞いてみたら? 神宮寺ホールディングスを、あなたに譲ってもいいかって」

紅い唇がゆるく弧を描く。顔には、春の陽だまりみたいな柔らかな笑み。

――なのに。

神宮寺美琴の背筋を、氷水が伝った。

恐怖と戦慄が胸元からじわじわ広がり、指先まで染み込んでいく...

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