第91章

 まだ彼女が深く考え込むより先に、朝比奈澪がこちらへ向けてべっと舌を出し、赤い唇をわずかに動かした。

 藤堂静香の顔色がさっと変わり、ソファから勢いよく立ち上がる。

 朝比奈澪の口の形は、はっきりこう言っていた。

『あなたなんか、私の旦那の母親にふさわしくない』

 二人が去ったあと、藤堂静香は拳をぎりぎりと握り締め、奥歯を噛みしめた。憎しみで胸が焼ける。

 車に乗り込むと、朝比奈澪は早川隼人に運転を促し、首を傾けて神宮寺玲央を見た。

 彼の表情は、今にも墨が滴り落ちそうなほど陰っている。澪は慌てて、そっと彼の上着の裾をつまんだ。

「ねえ、旦那さま。怒らないで。あんなの、相手にす...

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