第72章

事を成し遂げるには、まず凛奈を引き離さないと。

黒宮司奈は遠巻きに神野怜司を見据えていたが、手を出す隙がまるでない。

司奈はくるりと目を巡らせ、少し先を酒のトレーを持って通り過ぎるスタッフに視線を留めた。次の瞬間、口元がわずかに弧を描く。

西島真尾には適当に二言三言だけ投げる。

「ちょっとお手洗い」

返事を待つこともなく、ヒールを鳴らしながら早足でスタッフを追った。

左右を確認し、廊下の人目につかない角へ引っ張り込む。バッグから札束を取り出し、そのまま相手の手にねじ込んだ。

「ひとつ、頼みたいことがあるの」

スタッフは分厚い札束を握りしめ、ごくりと唾を飲み込む。腰がさらに低く...

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