第76章

凛奈はコップを持つ手を止めた。

視線を上げ、病室のベッドに横たわる男を見る。

神野怜司は目を覚ましたばかりで、顔色はまだ青白い。シャツの襟元はだらしなく緩み、けれど瞳の奥はさっきまでとは違って澄んでいた。

ただ――その問いを口にした本人も、どこか居心地が悪そうだった。喉仏が小さく上下し、それでも視線だけは凛奈から外れない。

凛奈の耳の先が、勝手に熱を帯びた。

彼女はコップを彼の手に押しつけ、平静を装って言う。

「よくそんなこと聞けるね? 昨夜なんて、私のこと氷みたいに抱きしめて離さなかったくせに」

神野怜司は俯いて一口飲む。声はまだ少し掠れていた。

「……じゃあ、キスした?」...

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