第4章 生き返った?
黒崎蓮の視線は、そのフォトスタジオに釘付けになっていた。
あの車だ。絶対に見間違えるはずがない。
五年だ。
彼は幾度となく、真夜中に天宮星羅のあの顔を夢に見て飛び起きた。ある時は愛おしげに自分を見つめる姿、ある時は炎の中で決別を告げる背中。
だが最も多いのは、血の海に横たわり、彼に向かって伸ばした手が力なく垂れ落ちる姿だった。
心臓を抉り取られるような痛み。その度に彼は窒息しそうになった。
自分は想いが募りすぎて幻覚を見ているのだと思っていた。
だが今、理性が告げている。あれは幻覚ではない。
天宮星羅は、生きている?
その認識は雷鳴のように彼の脳内で炸裂した。
続いて湧き上がってきたのは、失ったものを取り戻した狂喜ではなく、愚弄され、騙されていたことへの凄まじい怒りだった。
天宮星羅が生きている? では五年前、刑務所で死んだのは誰だ?
彼女はこの五年間、どこにいた?
なぜ死を偽装した? 俺から完全に逃れるためか?
次々と浮かぶ疑問は鋭い棘となって黒崎蓮の心に突き刺さり、ただでさえ苛立っていた感情を完全にかき乱した。
「黒崎社長、我々は……」
運転手が彼の陰鬱な表情を見て、恐る恐る尋ねた。
「調べろ」黒崎蓮の声は氷のように冷たかった。「隣のスタジオの全情報、それからあの車だ。持ち主が誰なのか、今すぐだ!」
「はい、黒崎社長」秘書は怠ることなく、すぐに携帯電話を取り出して手配を始めた。
いいだろう。
天宮星羅、捕まらないように祈るんだな。
もし本当にお前が生きているなら、この五年間、俺が味わった苦痛と焦燥は何だったというのだ?
一方、スタジオの中は温かい空気に包まれていた。
「わあ! ママ、ここすっごく綺麗!」リクは広々とした明るい空間を走り回っている。
ノアは静かに天宮星羅のそばに寄り添い、大きな瞳で好奇心いっぱいに周囲を観察していた。
「気に入った?」天宮星羅はしゃがみ込み、二人の息子の頭を撫でた。
「うん!」リクは力強く頷く。「これからはここでママの仕事が終わるのを待てるね!」
天宮星羅は微笑んだ。心の底が柔らかくなる。
この五年間、苦労は多かったけれど、この健康で活発な子供たちを見ていると、すべてが報われる気がした。
彼女が立ち上がり、子供たちに自分の個室オフィスを見せようとした時、携帯電話が鳴った。
マネージャーの小林さんからだ。
「星羅、今どこにいるの? A市に戻ったならどうして一言連絡くれないのよ?」電話の向こうから小林さんの快活な声が聞こえてくる。
「飛行機を降りたばかりで、子供たちを連れてスタジオに来たところよ」天宮星羅は笑って答えた。「サプライズにしようと思って」
「サプライズ? 心臓に悪いわよ!」小林さんは鼻を鳴らしたが、すぐに声のトーンが興奮したものに変わった。「でも、ちょうどいいタイミングで戻ってきたわ! 今しがた仕事が入ったの。先方があなたをご指名よ!」
天宮星羅は少し意外に思った。「私を指名? 国内ではまだ無名のはずだけど」
ここ数年、海外では「ステラ」という偽名を使っており、国際的には少し知られていたが、国内で知る人は多くないはずだ。
小林さんの口調は誇らしげだった。
「それがね、相手はA市のトップクラスの名門よ。情報網が違うわ!」
「新任社長のイメージ宣伝写真を撮りたいらしくて、要求がすごく高いの。何人もの写真家の作品を見ても満足しなかったらしいんだけど」
「最後にどういうわけか、あなたのあの代表作を見て、『天人のごとし』って驚嘆して、名指しであなたを探せって!」
「これは千載一遇のチャンスよ!」
「この案件さえ取れれば、国内市場でのデビュー戦は大成功間違いなしだわ!」
天宮星羅の心も動き出した。
今回戻ってきたのは、当時の真相を解明し天宮家の復讐をするためだが、最も重要なのは仕事の拠点を国内に移し、子供たちに安定した生活環境を与えることだ。
このチャンスは、確かにあまりにもタイムリーだった。
「分かったわ、小林さん。時間と場所を送って。すぐに向かうから」
「了解! 相手も急いでるみたいで、今日の午後、カフェ・クラウディでの約束よ」小林さんは一呼吸置き、また尋ねた。「子供連れで大丈夫? 私が先に行って見ててあげようか?」
「大丈夫、車で連れて行くわ。向こうに着いたら少し面倒を見てくれると助かる」天宮星羅は子供たちを一人でここに残したくなかった。
「もちろんよ、私の可愛い二人の宝物に会うのも久しぶりだしね!」
天宮星羅が到着した時、小林さんはすでに店の前で待っていた。
「私の可愛い子ちゃんたち、早く抱っこさせて!」小林さんはリクとノアを見るなり、満面の笑みで迎えた。
「小林さん!」リクが熱烈に飛びつく。
ノアも礼儀正しく挨拶した。「小林さん、こんにちは」
「いい子ねえ」小林さんは左手と右手でそれぞれを抱き寄せ、可愛がり用は半端ではない。「星羅、先に入ってて。私が外で遊んでてあげるから。邪魔はさせないわ」
「ありがとう、小林さん」天宮星羅は感謝の笑みを浮かべ、カフェの中へと入っていった。
彼女は約束の席に座り、辛抱強く待った。
一方、一台の派手な赤いフェラーリがカフェの前に停まった。
ドアが開き、全身ブランド物で固めたハンサムな男が降りてきた。
彼はまさに黒崎蓮の親友、一条拓海だ。
一条拓海は今日、機嫌が良かった。家の祖父がようやく折れて、グループの新事業の宣伝を任せてくれたのだ。彼が真っ先に思いついたのは、写真界を驚かせた謎の写真家「ステラ」を探すことだった。
彼は鼻歌交じりに店に入ろうとして、ふと視線を走らせた先で固まった。
近くのテラス席で、マネージャーらしき女性が二人の男の子と遊んでいる。
その二人の男の子……。
一条拓海の足は地面に釘付けになった。
彼は目を強くしばたたかせ、見間違いではないかと疑った。
一人は活発に動き回り、一人は静かに落ち着いている。雰囲気は違うが、その顔……。
まるで黒崎蓮の縮小版じゃないか!
眉も、鼻も、口も、似ていないところがない!
なんてこった! 蓮のやつ、いつの間に外でこんな大きな隠し子を作ってたんだ? 親友の俺が全く知らないなんてどういうことだ?
一条拓海の心中に荒波が立った。彼は無意識に駆け寄って問い詰めようとした。
その時、子供の一人が遊び疲れたのか、カフェに向かって叫んだ。「ママ、喉乾いた!」
その呼びかけに応えるように、一人の女性がカフェから出てきた。
彼女が振り返り、その絶世の美貌を陽光の下に晒した瞬間、一条拓海は雷に打たれたように頭が真っ白になった。
天宮星羅!
ありえない!
彼女は五年前に刑務所で死んだはずだ! 遺体だって火葬されたはずだ!
蓮はそのせいで長い間落ち込んでいたんだぞ。
今、目の前に生きているのは誰だ? 幽霊か?
一条拓海は腰を抜かしそうになり、よろめいた。
嘘だろ! 生き返ったのか!
彼はもう仕事のことなど構っていられず、慌てて携帯電話を取り出した。
電話が繋がる。
「何だ?」黒崎蓮の冷たい声が響く。
「蓮!」一条拓海の声は震え、支離滅裂に叫んだ。「お、お、俺……幽霊を見た! いや! 幽霊じゃない! 本物だ! 早くカフェ・クラウディに来い! 早く!」
黒崎蓮は眉をひそめた。「一条拓海、何を血迷っている?」
「血迷ってなんかいない!」一条拓海は飛び上がりそうなほど焦っていた。「天宮星羅だ! 天宮星羅を見たんだ! 彼女は死んでない! 死んでないどころか、子供を二人連れてる! お前と瓜二つの!」
電話の向こうは、死のような静寂に包まれた。
数秒後、黒崎蓮の声が再び響いた。それは地獄の底から響いてくるような、すべてを破壊するほどの怒りと冷気を帯びていた。
「住所を送れ」
一条拓海が住所を告げると、電話は乱暴に切られた。
十分もしないうちに、耳をつんざくようなブレーキ音がカフェの静寂を切り裂いた。
一台の黒いロールス・ロイス・ファントムが横暴な様子で店の前に停まり、ドアが重々しく開かれた。
黒崎蓮が車から降り立つ。全身に恐ろしいほどの殺気を纏い、その端正な顔は恐ろしいほどに陰鬱だった。
視線は矢のように、遠くで子供たちと談笑している女性を即座に捉えた。
天をも焦がす怒りが、瞬時に押し寄せた。
