第79章 クライアント様?

前を行く男が足を止めた。何かを聞きつけたかのように、不審げに振り返る。

全く知らない顔だ。

彼ではない。

黒崎蓮の疾走していた足が、地面に縫い付けられたように止まる。

「俺を呼んだのか?」

男は、目の前で荒い息を吐き、顔色を悪くしている黒崎蓮を見て、思わず一歩後ずさりした。

黒崎蓮の胸が激しく上下する。

先ほど一瞬湧き上がった巨大な希望は、この瞬間に音を立てて崩れ去り、代わりに氷のような失望が彼を頭から飲み込んだ。

失望。

徹底的な失望。

そのあまりの落差に、心臓は止まりかけ、呼吸すら困難になる。

「……人違いだ」

黒崎蓮は喉の奥からその言葉を絞り出した。声は乾ききり...

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