第12章
私の名は高橋理沙、三十六歳。人生の最期に、ある真実の物語を語らなければなりません。
幼い頃から、この世界に私の居場所はないのだと理解していました。
五歳の冬、雪の舞う日に、私は孤児院の前に置き去りにされました。院長の前に怯えて立つ私の手には、母が遺した唯一の形見——一冊の医学解剖図譜だけが握りしめられていました。
「この子は特別だ」
分厚い本を夢中でめくる私を見て、院長はそう呟きました。その言葉が、私の最初の存在証明でした。
他の子供たちが人形遊びに興じる時、私は大脳皮質の複雑な溝を指でなぞり、彼女たちがアニメに夢中な時、私はニューロンのシナプス結合の神秘に心を奪われて...
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チャプター
1. 第1章
2. 第2章
3. 第3章
4. 第4章
5. 第5章
6. 第6章
7. 第7章
8. 第8章
9. 第9章
10. 第10章
11. 第11章
12. 第12章
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