死んで初めて、夫の愛に気づいた

死んで初めて、夫の愛に気づいた

渡り雨 · 完結 · 36.4k 文字

682
トレンド
12.4k
閲覧数
600
追加済み
本棚に追加
読み始める
共有:facebooktwitterpinterestwhatsappreddit

紹介

心理カウンセラーの中村綾音は違法人体実験を発見し、口封じのため命を奪われた。魂となった彼女は、夫・誠治が自分の遺体に冷たく接し、女性研究員・高桥理沙と親密になる姿を見て深く傷ついた。だが翡翠の破片と暗号化された病歴が真相を暴く——中村誠治は秘密捜査員で、よそよそしさを隠れ蓑に潜入捜査していたのだ。命懸けで守り抜いたこの愛は、正義と悪の攻防戦の中、生死の境を越えてついに理解される。

チャプター 1

 冷たい検案台の上で、私は奇妙な感覚に囚われていた。これは紛れもなく私の身体だというのに、まるで他人の物語をスクリーン越しに眺めているようだ。鼻を突くホルマリンの匂いが、遺体安置室の空気を満たしている。かつては慣れ親しんだはずの病院の匂いが、今はひどく異質なものに感じられた。

 私の亡骸を検めているのは小林先生。誠治の助手で、医大を出たばかりの若者だ。ゴム手袋に包まれた彼の手は、私の腕を裏返す際に微かに震えている。こういう仕事にはまだ不慣れなのだろう。

 「身元は判明しましたか」

 その声に、私の心臓が大きく跳ねた。――もし、まだ心臓というものがあるのなら。

 誠治が部屋に入ってくる。私が選んであげた白衣を纏い、その表情はどこまでも厳粛でプロフェッショナルだ。彼は私の顔を覗き込む。けれど、私が焦がれてやまなかったその瞳に、目の前の亡骸が私だと気づいた光は微塵も宿らない。

 それも当然か。車のタイヤに顔を轢き潰され、もはや原型を留めていないのだから。

 「現在、照会中です、中村先生」小林先生が眼鏡を押し上げた。「ですが、いくつか奇妙な点が。被害者は交通事故を装われていますが、死の直前、計画的な薬物投与を受けていた形跡があります。少なくとも十時間以上、意識ははっきりしたままだったかと」

 十時間。私は目を閉じ、あの長い悪夢を思い返す。

 あの日、病院の駐車場でのことだった。一日のカウンセリング業務を終え、誠治の好物の味噌汁を作ろうと家路につくところだった。車の鍵をアスファルトに落とし、屈んで拾おうとした、その瞬間。太い腕が伸びてきて、私の口と鼻を荒々しく塞いだ。

 「動くな」

 声は低く静かだったが、誰なのかはっきりとわかった。

 鋭い痛みが首筋を走り、針が突き立てられる。奇妙な痺れが全身に広がっていく。藻掻きたい。助けを呼びたい。なのに、身体は鉛のように重く、言うことを聞かない。ただ、意識だけが刃物のように冴え渡っていた。

 彼らに運び込まれたのは、見知らぬ地下室だった。真っ白な壁。無機質な医療機器の数々。そこに、高橋理沙が立っていた。私がいつも素敵だと褒めていた白衣を身に纏い、見たこともない冷たい表情を浮かべて。

 「記録開始」彼女はレコーダーに告げた。「被験者、女性、二十九歳。健康状態良好、既婚。神経遮断薬、初回投与量、五ミリリットル」

 それからの十時間、私はずっと待っていた。誠治が、私の帰りが遅いことに気づくのを。彼が、私の携帯を鳴らすのを。彼が、私を探しに来てくれるのを。だから必死に意識を保ち、ひとつひとつの出来事を脳裏に焼き付けた。彼が助けに来てくれたとき、何があったのかを伝えるために。

 けれど、彼は来なかった。

 七回目の注射で心臓が不規則に跳ね始めたときでさえ、私は考えていた。明日の彼の誕生日のこと。そして、まだ伝えられていない、あの吉報のことを……。

 「被害者の体内から特殊な薬物残留物が検出されました」小林先生が声を震わせる。「この薬物は、当院の神経科研究室でのみ使用されているものです。この殺害方法……あまりにも残忍です。まるで、何かの実験のようで」

 誠治の表情に変化はない。私はただ、見ていた。彼は冷静に頷くだけ。その冷酷さに、私の心は急速に冷えていく。

 これが、私の知っている誠治なの?

 不意に携帯の着信音が響き、誠治はポケットからスマートフォンを取り出して画面を一瞥した。

 「奥様からですか?」小林が何気なく尋ねる。彼も誠治が既婚者だと知っている。「いつも先生のこと、心配されてますもんね」

 私は聞いた。誠治が「いや」とだけ答え、通話ボタンを押すのを。

 「理沙か。どうした?」

 理沙?私の意識が、深い海の底へと沈んでいく。私を殺した女が、今、私の夫に電話を?

 誠治は少し離れた場所へ移動しながら、吐き捨てるように言った。

 「綾音は面倒な女でね。あいつの執着には、もううんざりなんだ」

 小林先生の動きが止まる。彼が自分の妻をそんなふうに言うとは、思いもしなかったのだろう。

 「あの女」誠治の声は、さらに温度を失った。「俺の人生から、永遠に消えてほしいよ。いっそ、死んでくれればとさえ思う」

 私の魂が、乾いた笑いを漏らした。中村誠治、あなたの願いは叶ったじゃない。あなたの妻の亡骸が、今あなたの目の前に横たわっている。それなのに、あなたときたら。

 小林先生は気まずそうに俯き、作業を再開した。彼の手が私の腹部を調べたとき、ぴたりと止まった。

 「中村先生」彼の声が、少しだけ上ずる。「……発見が。被害者の子宮内膜に顕著な変化が見られます。おそらく、妊娠していたかと。ごく初期の段階ですが」

 妊娠。私はあの秘密を思い出した。誠治の誕生日に伝えようと計画していた、サプライズ。結婚して七年、私たちにようやく授かった命。

 彼がその知らせを聞いたときの顔を、何度も想像した。驚きの後に込み上げてくる、あの歓喜の表情を。

 「詳しく調べてくれ」誠治は通話を終え、相変わらず感情の読めない声で言った。

 彼は知らない。彼が失ったのが、ただの「面倒な妻」だけではないことを。まだ見ぬ我が子でもあったことを。

 再び、着信音が鳴る。今度は、画面に「田中美咲」と表示されていた。

 「田中さん?」誠治は通話に出た。

 「誠治くん?綾音、そっちにいる?昨日から出勤してなくて、心配で」受話器の向こうから、親友である美咲の焦った声が聞こえる。「最近すっごく機嫌が良さそうだったから。何か良いことでもあったのかなって。もしかして、二人から何か嬉しい報告があるんじゃないかって話してたの」

 そうよ、美咲。良い知らせは、あった。ただ、それを告げる機会が、永遠に失われただけ。

 「こっちは忙しいんだ。あいつの面倒まで見てられるか」誠治はぞんざいに答える。「またどこかで遊び歩いてるんだろ」

 誠治は一晩中、検案室で身元不明の遺体と向き合ったが、それが自分の妻だとは最後まで気づかなかった。

 翌朝。私がまだこの悪夢のような現実を咀嚼できずにいると、廊下から足音が聞こえてきた。誠治と小林先生が、徹夜明けの疲れた顔で部屋から出てくる。

 「まだ身元は割れないが」誠治が小林先生に言った。「どうにも、見覚えがあるような気がするんだ」

 そのとき、廊下にコツ、コツ、とハイヒールの音が響いた。

 入口に現れたその姿を、私は見た。――高橋理沙。ベージュのパンツスーツに身を包み、艶やかな髪は非の打ち所なく後ろでまとめられている。

 私の魂に、黒い怒りが潮のように満ちてくる。彼女だ。この女が、私を殺した。

 「誠治さん」彼女の声は、蜜のように甘い。「昨夜は大変だったみたいね」

 彼女はごく自然に誠治の隣に歩み寄り、その腕に自分の腕を絡めた。その親密な仕草は、死の苦しみよりも深く、私の心を抉った。

 「理沙」誠治は彼女を見つめる。その瞳には、私が一度も見たことのない優しさが宿っていた。

 小林先生は、そっとその場を離れていく。

 叫びたい。駆け寄って、その偽りの仮面を剥がしてやりたい。誠治に告げたい。お前の妻を殺したのは、この女だと。けれど私にできるのは、ただ呆然と立ち尽くすことだけ。私を殺した女が、私の夫の隣で、睦まじく寄り添う姿を、ただ見ていることだけだった。

最新チャプター

おすすめ 😍

不倫夫を捨て、私は大富豪の妻になる

不倫夫を捨て、私は大富豪の妻になる

91.7k 閲覧数 · 連載中 · 七海
人生最良の日になるはずだった、結婚式当日。
新郎の車から出てきたのは、見知らぬ女の派手なレースの下着だった。

しかも、その布切れにはまだ。生々しい情事の痕跡が残されていた。

吐き気がするほどの裏切り。
幸せの絶頂から地獄へと突き落とされた私。

けれど、泣き寝入りなんてしてやらない。
私はその場でウェディングドレスの裾を翻し、決意した。

「こんな汚らわしい男は捨ててやる」

私が選んだ次の相手は、彼など足元にも及ばない世界的な億万長者で?
離婚後、奥さんのマスクが外れた

離婚後、奥さんのマスクが外れた

285.8k 閲覧数 · 連載中 · 来世こそは猫
結婚して2年後、佐藤悟は突然離婚を申し立てた。
彼は言った。「彼女が戻ってきた。離婚しよう。君が欲しいものは何でもあげる。」
結婚して2年後、彼女はもはや彼が自分を愛していない現実を無視できなくなり、過去の関係が感情的な苦痛を引き起こすと、現在の関係に影響を与えることが明らかになった。

山本希は口論を避け、このカップルを祝福することを選び、自分の条件を提示した。
「あなたの最も高価な限定版スポーツカーが欲しい。」
「いいよ。」
「郊外の別荘も。」
「わかった。」
「結婚してからの2年間に得た数十億ドルを分け合うこと。」
「?」
跡継ぎゼロの冷酷社長に一夜で双子を授けてしまいました

跡継ぎゼロの冷酷社長に一夜で双子を授けてしまいました

98.7k 閲覧数 · 連載中 · 風見リン
結婚三年目、浅見紗雪は名門の偽令嬢だったことが発覚した。

姑は彼女に離婚を迫り、婚約を真の令嬢に返すよう要求した。

浅見紗雪は不安を抱えながら夫に尋ねた。

しかし彼は冷淡な表情で言った。

「俺が誰と結婚しようと、どうでもいい」

彼女は心が冷え切り、離婚協議書にサインした。

一週間後、十数機のヘリコプターが浅見紗雪の前に着陸し、そこから三人の財閥御曹司が降りてきた。

彼らは興奮した面持ちで言った。

「妹よ、二十年間、ようやく君を見つけることができた!」
逃げる秘書の資産は三千億!?急げ、社長!

逃げる秘書の資産は三千億!?急げ、社長!

73k 閲覧数 · 連載中 · 神楽坂奏
十年前、中林真由の母親が腎臓移植を必要としたが、家には手術費を工面する金がなく、挙句の果てに家まで叔父一家に乗っ取られた。
少しでも多くのお金を稼ぐため、彼女は高級クラブでウェイトレスとして働き始めた。
女があまりに美しく、誰も守ってくれる者がいない時、その美しさは原罪となる。
初出勤の日、彼女は危うく猥褻行為の被害に遭いかけた。
男たちが彼女を取り囲み、卑猥な視線をその身に注ぐ。
クラブの金持ちたちは、彼女のような世間知らずの子羊を見つけ出すのが実にうまかった。
彼女が最も惨めなその時、今野敦史が現れた。
この十年、彼女はずっと今野敦史の傍にいた。
友人たちも、家族も、皆が今野敦史を知っていて、二人が付き合っていると思い込んでいる。
でも、今まで彼の周りには女が絶えなかったじゃない。それが今、「ついに運命の相手を見つけた」なんて言ってるの。
今、ようやく彼から離れる機会を得たというのに、どうして手放せようか。
死んだはずの妻が、自分と「瓜二つ」の双子を連れて帰ってきた

死んだはずの妻が、自分と「瓜二つ」の双子を連れて帰ってきた

58.6k 閲覧数 · 連載中 · 白石
5年前、身に覚えのない罪で投獄され、身重の体で捨てられた私。
異国の地で必死に生き抜き、女手一つで双子の息子を育て上げた。

平穏を求めて帰国した私だったが、運命は残酷だ。
かつて私を捨てた元夫・ベンジャミンに見つかってしまったのだ。

「その子供たち……俺にそっくりじゃないか」

彼の目の前にいるのは、彼を縮小したかのような「生き写し」の双子。
ベンジャミンは驚愕し、私たちを引き留めようとする。
しかし、息子たちは冷酷な父親を敵視し、断固として拒絶するのだった。

「僕たちを捨てた男なんて、父親じゃない!」

やがて明らかになる、あの日の「火事」の真相と、悪女オリビアの卑劣な罠。
すべての誤解が解けた時、彼が差し出す愛を、私は受け入れることができるのか?

憎しみと、消え残る愛の間で揺れる、会と許しの物語。
社長、見て!あの子供たち、あなたにそっくりです!

社長、見て!あの子供たち、あなたにそっくりです!

81.3k 閲覧数 · 連載中 · 風見リン
結婚三周年――
中川希は期待に胸を膨らませて、高原賢治に妊娠の報告をした。
しかし返ってきたのは――十億円の小切手、一言「子供を中絶しろ」、そして離婚契約書だった。
子供を守るため、彼女は逃げた。
――五年後。
双子の愛らしい子供を連れて帰ってきた彼女は、医学界で誰もが憧れる名医となっていた。
追い求める男は数知れず。
その時、高原賢治は後悔し、全世界に向けて謝罪のライブ配信中。
中川希は冷ややかに見下ろす。
「離婚して、子供もいらないって言ったんじゃないの?」
彼は卑屈に頼み込む。
「希、復縁して、子供を――」
「夢でも見てなさい。」
「希、子供たちは父親が必要だ。」
双子は両手を腰に当て、声をそろえて言う。
「私たち、ママをいじめるパパなんていらない!」
部屋から布団も荷物も投げ出され、大人しく立つことすらできない高原賢治に、希は言い放つ。
「目を見開いて、よく見なさい。結局誰が誰をいじめてるのか――!」
不倫修羅場の翌日、財閥の御曹司とスピード婚!?

不倫修羅場の翌日、財閥の御曹司とスピード婚!?

106.3k 閲覧数 · 連載中 · 朝霧祈
田中唯はドアの外に立ち、部屋の中から聞こえてくる淫らな声に、怒りで全身をわなわなと震わせていた!
ここは彼女の新居。彼女と高橋雄大の新居になるはずの場所だ。
部屋の中にある調度品は一つ一つ彼女が心を込めて選び抜き、その配置も隅々まで熟考を重ねて決めたものだった。
中にある新婚用のベッドは、昨日届いたばかり。
明日は、二人の結婚式だ。
それなのに今日、彼女の婚約者はその新婚用のベッドの上で、別の女と情熱的に絡み合っている!
「俺と結婚しろ」
背後の男が突然口を開き、驚くべきことを言った!
「俺の姓は鈴木。鈴木晶だ」男は自己紹介を終えると、言った。「明日の結婚式、俺と高橋雄大、どっちを選ぶ?」
田中唯は心の中で、どちらも選びたくないと叫んだ。
だが、それは不可能だと分かっている。
明日の結婚式は予定通り行わなければならない。キャンセルすれば祖母が心配する。自分にわがままを言う資格はない。
「あなたを選びます」
冷酷社長の愛の追跡、元妻の君は高嶺の花

冷酷社長の愛の追跡、元妻の君は高嶺の花

80.2k 閲覧数 · 連載中 · 午前零時
「離婚しましょう」——夫が他の女性と恋に落ち、私にそう告げた日。
私は静かに頷いた。

離婚は簡単だった。でも、やり直すことはそう簡単にはいかない。

離婚後、元夫は衝撃の事実を知る。私が実は大富豪の令嬢だったという真実を。
途端に態度を豹変させ、再婚を懇願して土下座までする元夫。

私の返事はたった一言。
「消えろ」
天使な双子の恋のキューピッド

天使な双子の恋のキューピッド

86.7k 閲覧数 · 連載中 · 鯨井
妊娠中の私を裏切った夫。不倫相手の策略に陥れられ、夫からの信頼も失い、耐え難い屈辱を味わった日々...。

しかし、私は決して諦めなかった。離婚を決意し、シングルマザーとして懸命に子育てをしながら、自分の道を切り開いていった。そして今や、誰もが認める成功者となった。

そんな時、かつての夫が後悔の涙とともに現れ、復縁を懇願してきた。

私の答えはただ一言。
「消えなさい」
離婚と妊娠~追憶のシグナル~

離婚と妊娠~追憶のシグナル~

71k 閲覧数 · 連載中 · 月見光
離婚して、すべて終わると思った。
伊井瀬奈は新生活を歩み始める决心を固めていた。
しかし、その時、訪れたのは予期せぬ妊娠——それも、最悪のタイミングでの激しいつわり。
瀬奈は必死に吐き気をこらえるが、限界を迎え……。
「お前……まさか……」
冷酷無比な元夫・黒川颯の鋭い目が、瀬奈のお腹へと向けられる。
あの日から、運命は、もう一度動き出していた。
跡継ぎ問題に悩む御曹司様、私がお世継ぎを産んで差し上げます~十代続いた一人っ子家系に、まさかの四つ子が大誕生!~

跡継ぎ問題に悩む御曹司様、私がお世継ぎを産んで差し上げます~十代続いた一人っ子家系に、まさかの四つ子が大誕生!~

90.7k 閲覧数 · 連載中 · 蜜柑
六年前、藤堂光瑠は身覚えのない一夜を過ごした。夫の薄井宴は「貞操観念が足りない」と激怒し、離婚届を突きつけて家から追い出した。
それから六年後——光瑠が子どもたちを連れて帰ってきた。その中に、幼い頃の自分にそっくりの少年の顔を見た瞬間、宴はすべてを悟る。あの夜の“よこしまな男”は、まさに自分自身だったのだ!
後悔と狂喜に押し流され、クールだった社長の仮面は剥がれ落ちた。今や彼は妻の元へ戻るため、ストーカーのようにまとわりつき、「今夜こそは……」とベッドの隙間をうかがう毎日。
しかし、彼女が他人と再婚すると知った時、宴の我慢は限界を超えた。式場に殴り込み、ガシャーン!と宴の席をめちゃくちゃに破壊し、宴の手を握りしめて歯ぎしりしながら咆哮する。「おい、俺という夫が、まだ生きているっていうのに……!」
周りの人々は仰天、「ええっ?!あの薄井さんが!?」
愛した令嬢は、もう他の男のものです

愛した令嬢は、もう他の男のものです

42.5k 閲覧数 · 連載中 · 塩昆布
彼の“日陰の恋人”として過ごした五年。
優しく、聞き分けの良い女でいれば、いつか彼の心を手に入れられると信じていた。

しかし、神様は残酷な悪戯を仕掛けた。
私に下された診断は、心不全。そして、余命数ヶ月という非情な宣告だった。

やがて、彼の“本命”が帰国する。
そして、私はあっけなく捨てられた。

騒ぎ立てることもなく、私は静かに彼の前から姿を消した。
彼から一銭たりとも、受け取らずに……。