第121章

車が一ノ瀬家の本邸の前に静かに停まった。紬がドアを押し開け、まだ足場も定まらないうちに、ふいに温かく震える手が彼女の手首をきつく掴んだ。

「紬? 本当に紬かい? 本当によく帰ってきてくれたねえ」

久しぶりに会う老婦人は、顔いっぱいに喜びを滲ませ、赤くなった目にはすでに涙がいっぱいに溜まっていた。心の準備をしてきたはずの紬も、その姿を見て思わず鼻の奥がツンとした。

「おばあちゃん……ごめんなさい。ずっと顔も見せに来なくて」

本当は、この数年の間に何度も電話をかけようとした。けれど、もう過去に縛られたくなくて、一度も連絡できずにいたのだ。

老婦人は彼女の手を引いて屋敷の中へ歩き出しなが...

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