第54章

「蓮」

その時、雪乃がふいにレストランに姿を現した。彼女は慣れた手つきで蓮の腕に絡みつく。

「ごめんなさい、遅くなっちゃった」

声は決して大きくなかったが、静まり返った空間では妙に響き、傍らにいた数人の視線が一斉に彼女へ向いた。

雅は振り返って蓮と雪乃の姿を認めると、たちまち嘲笑を浮かべた。

「自分の夫が高嶺の花と一緒にいるのを見て、どんな気分?」

紬は胸の奥から込み上げる酸っぱい感情をぐっと堪えた。今朝、叔父の誕生日会へ一緒に行かないかと蓮にメッセージを送ったが、「時間がない」と冷たくあしらわれたばかりだ。

なのに、雪乃に関することなら、どんなに忙しくても必ず時間を作る。

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