第62章

赤信号で車が停まったとき、望は横目でそっと隣を盗み見ると、しばらくためらった末にたまらず口を開いた。

「あのさ……手、大丈夫か?」

紬は窓の外に向けていた視線を戻し、自分の手の甲を見下ろすと、小さく笑って首を振った。

「平気です。薬を塗ったから、もう痛くありません」

その言葉に望はほっと息を吐き、少し言葉を探すようにして言った。

「今日のことは気にしないでくれ。今まで俺たち、君のことを誤解してて、ひどいことばかり言って……」

最後まで言わせず、紬は淡々とした声で遮った。

「一ノ瀬さん。昔のことは、もう蒸し返したくありません」

望は一瞬言葉に詰まり、彼女のよそよそしい態度に、た...

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