第73章

その場の空気が一瞬凍りついた。紬はもう由奈を相手にせず、背を向けてリビングへと歩き出す。

「ちょっと、待ちなさいよ!」

由奈は足早に追いすがり、ソファに腰を下ろした紬を睨みつけた。

「さっきの言葉、どういう意味?」

「お兄様の奥さんじゃないって、どういうこと? まさか……お兄様、あなたと離婚する気なの?」

隠しきれない興奮を顔に浮かべる由奈を見て、紬の胸中には複雑な思いが渦巻いた。この数年、一ノ瀬の人間にはずっと誠心誠意尽くしてきた。由奈もその一人だったが、まさか自分の真心がこんな冷笑で返されるとは思いもしなかった。

それもそうか。蓮が本気で彼女を娶ったわけではないことは誰もが知...

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