第77章

30分後。マンションの下へ降りると、見慣れた車が停まっていた。窓越しにこちらを見つめる蓮の顔は、いつもと変わらず冷ややかだった。

「ごめんなさい、少し手間取っちゃって」

助手席に乗り込み、紬は自ら謝った。蓮がそんなこと気にも留めていないのは分かっている。それでも、この三年の結婚生活で身についた習慣だった。

車がマンションを出る。蓮は前方を真っ直ぐ見据えたまま、表情に一絲の乱れもない。まるで昨夜のことなど、何もなかったかのように。

そのとき、紬は足元のフロアマットに何かが落ちているのに気づいた。拾い上げてみると、一本の口紅。

これは……雪乃の口紅だ。

わざと残していったのだと、すぐ...

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