第99章

「峥」

スマホをポケットにしまった直後、背後から聞き慣れた声がした。振り返ると、雅がこちらへ向かって歩いてくる。峥の顔色が一瞬で険しくなった。

雅はその異変に気づかないまま彼の前まで来ると、申し訳なさそうな顔を作って謝罪した。

「ごめんなさい、峥。今日、救急救命室の前では少し感情的になりすぎちゃった。紬にあんなこと言うべきじゃなかったわ」

峥に冷酷な女だと思われたくないからこそ、わざわざ謝りに来たのだ。どうせ紬はもうすぐ病死する。今は少し下手に出たところで痛くも痒くもない。

峥が黙り込んでいるのを見て、雅は気を取り直し、さらに言葉を続ける。

「紬は小さい頃から両親に大事にされて育...

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