第2章
もしジュリアンが本当に善人なら、あの無垢な心臓を喰らえば、液体窒素を飲み込んだみたいに私の内臓はズタズタに壊れてしまうだろう。
そんな賭けはできない。切り捨てるしかなかった。
その夜、私は高級で、薄暗いカクテルラウンジで会うことに同意した。
「ジュリアン、あなたがいい人なのは分かってる。でも、これ、うまくいってないと思うの」私は声を冷たく、突き放すように保った。
「今いろいろ抱えてるの。ひとりにしてほしい」
ジュリアンの動きが止まった。黒い瞳が一瞬で本物の痛みで潤む。蹴られた子犬みたいな顔。
「僕、何かした? セレーナ」かすれた声が、ほんの少し震えた。
「違うの。ただ……終わり」
「お願いだ」彼は手を伸ばし、温かい手で私の冷えた指先にそっと触れた。
「最後に一杯だけ。最後の乾杯だ。それが済んだら、誓う。僕は引くし、二度と君を煩わせない」
迷ったが、結局うなずいた。……いいわ。最後の一杯。それで終わったら、本物の怪物を狩りに行く。
彼はバーテンダーに合図を送った。差し出されたバーボンを、私は一息にあおった。
喉の奥に、まるでバッテリー液を流し込まれたみたいな痛みが走る。否応なく苦い――鋭く重い、薬品めいたえぐみ。
顔を上げた。ジュリアンの空気が、まるで別人に変わっていた。
あの柔らかな子犬は消えていた。表情は平坦で死んでいて、生々しい傲慢さが滴っている。
「どうしたの、綺麗ちゃん?」彼は喉を鳴らすように囁いた。声には人間の温もりが一滴もない。
視界が激しく滲んだ。
腕も足も、たちまち鉛みたいに重くなる。前のめりに崩れ落ちながら、最後に見えたのは、勝ち誇った、吐き気のするほど得意げな笑みだった。
目が覚めたとき、周りは真っ暗だった。
私は、走行中のバンの荷室らしき場所の床板に、乱暴に跳ね返されていた。
手首と足首は、分厚い業務用の結束バンドで信じられないほどきつく縛られている。
口には重い銀色のダクトテープがべったり貼り付けられていた。
強烈な鎮静剤だ。普通の人間なら三日間昏睡する。
だが、氷河のように冷えたニシキヘビの生理が毒素を寸断し、血流から凍らせて弾き出した。
前方の運転席から声が漏れ聞こえる。
「いい身体してんな」しゃがれた、汚らしい声が鼻を鳴らした。
「当然だろ。俺が自分で選んだんだ」助手席からジュリアンが答えた。
紳士の欠片は一片も残っていない。声色は冷えきっていて、完全に商売のそれだった。
「郊外の、頭が悪くて自信のない女なんて、マジでちょろい。王子様みたいに振る舞って、ちょっと共感のふりをしてやれば、勝手に檻に入ってくれる」
ジュリアンが携帯電話を取り出す。
「もしもし、親父?」病的な興奮が滲む声。
「うん、新しいのを確保した。倉庫まであと十分くらいだ。親父のお気に入りの道具、用意しとけよ」
私は凍える金属の床に、完全に麻痺したまま横たわっていた。
内臓を蝕んでいた内側の霜が、唐突に止まる。
代わりに、心臓が暴れ出した。むき出しで、混じり気のない、純粋な高揚のリズム。
半分閉じたまぶたの下で、金色の縦長の瞳孔が闇にきらりと閃いた。
牙の奥に、濃く冷たい毒が、とろりと溜まる。
王子様なんかじゃない。こいつは――とんでもないご馳走だ。
バンが大きな穴ぼこに突っ込んだ。
頭が硬いものに激しく打ちつけられる。
プラスチックが皮膚を深く裂いた。
誰かが乱暴に私の肋骨に膝を叩き込み、目隠しを引き剥がした。
「起きろ起きろ」
私は息を吸い込み、身を丸めて縮こまった。
目を開き、涙で滲む視界を何度も瞬いた。
「やっとお目覚めか」
ジュリアンが、数歩先に座っていた。
今の彼の声は冷たいだけだった。意地が悪い。汚い。
(ゲームに乗れ、セレーナ)
「ジュリアン……?」私は喉を詰まらせた。わざと声を震わせる。「どういうこと? 手が……なんで縛ってるの? 痛い……」
ジュリアンの隣の男が笑った。湿って太い、鼻を鳴らすような笑いだ。「まだデートだと思ってやがるぜ、ボス」
ジュリアンが身を乗り出した。
窓の外を流れる街灯が、ちらりと彼の顔を照らす。
悪魔みたいだった。
ジュリアンは笑った。
「本気で思ってたのか? 五千ドルのスーツ着た男が、てめえみたいな安い女と付き合いたがるって」
私は床に向かって足をばたつかせた。
