第5章

 あの嵐の夜、私が『消失』してから、早くも三ヶ月が過ぎ去った。

 世間が黒木財団夫人の訃報で持ちきりになる中、私は沖縄の偏鄙な離島にある古びた民家で、ひっそりと身を潜めていた。

 借り受けた粗末な借家。カーテンを閉め切り、外界との接触を一切断つ日々。一日の大半を擦り切れたソファの上で過ごし、ただ呆然と、あの男に纏わる記憶を脳裏から引き剥がそうと足掻いていた。

 だが、黒木広根という存在は、もはや私の生理的機能の一部として深く刻み込まれてしまっていたのだ。

 親友の田中由美が訪ねてきて、強引に島のラーメン屋へと連れ出された時のことだ。注文した品が運ばれてくると、私は無意識にメニューを指...

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