第3章
全身が硬直した。
満たされる感覚があまりにも生々しい――クラブ「深淵」の最も奥深い死角に縫い留められ、顔すら見えない見知らぬ男に、私は完全に暴かれていた。
「待って……」裂けるような感覚に、声が震えた。「早すぎ……」
彼は身を引こうとはしなかった。
両手が私の腰をがっちりと掴み、壁にぴったりと押し付けてくる。本能的に抗おうとしたが、身じろぎするたびに鋭い痛みがより激しく打ち据えてきた。
彼の吐息が耳をかすめる。低く、焦りのない声。「本当に止めてほしいのか?」
「私――」
「体は違うことを言っているがな」
怒りと羞恥が入り混じったが、言葉は出てこなかった。彼の言う通りだったからだ。私の体は彼をきつく締め付けており、その無意識の収縮が、いかなる否定をも完全に無意味なものにしていた。
始まりは単なる事故だった。人波、暗闇、押し合う体と体の弾み。だが、そんな段階はとうに過ぎ去っていた。
快感が波のように押し寄せ、他のすべてを呑み込んでいく。
感覚の輪郭がぼやけていく。喧騒も、群衆も、壁を震わせる重低音も――すべてが溶け落ちた。代わりに押し寄せてきたのは、他のすべてをかき消してしまう、容赦のない感覚の波だった。
私は抵抗するのをやめた。彼の手が好きなように動くのに任せたのだ。
「力抜けよ」彼の声は耳元に留まったままだ。「最初はいつもこんなもんだ」
唇を噛み締めた。その言葉によって、実際に体が楽になってしまう自分がひどく恨めしかった。痛みが引き、代わりに未知の何かが這い上がってくる――恐怖を覚えるほどに、奇妙な感覚。
それは異様な感覚だった。私の体は何年もの間、欲求を持て余し疼いていたのに、理性は常にそれを固く封じ込めてきた。恐怖。一線を越えることへの恐怖。
今、その境界線は消え去った。恐怖とともに。あとに残されたのは、息が詰まるほどに強烈な快楽だけだった。
この四年間、私はずっと責任感の強い人間として生きてきた。きちんとした人間として。こんな真似は絶対にしない人間として。
欲望とはもっとロマンチックなものだと思っていた。優しくて、甘いものだと。こんな風に――乱暴で、浅ましく、完全に制御不能なものだなんて、考えたこともなかった。
何時間にも感じられたが、実際は数分だったのかもしれない。時間は何の意味も持たなくなった。私はただ、その感覚の中に呑み込まれていた――DJがスローな曲に切り替え、彼がようやく動きを止めるまでは。
糸の切れた操り人形のように壁を滑り落ち、床に座り込んで荒い息を吐く。
視界の隅で、彼がポケットから何かを取り出し、それから姿勢を正すのが見えた。ジャケットの乱れを直し、感情の読めない顔をしている。まるで、今の出来事など何もなかったかのように。
内股に張り付く粘つくような感触だけが、そこにあった事実の唯一の証明だった。そして私の中のどこかで、今まで固く閉ざされていた何かがこじ開けられ、それをどうやって再び閉じればいいのか、私にはまったく分からなくなっていた。
顔を向ける。自分の声が聞こえた。「このまま帰るつもり?」
彼はジャケットを直す手を止めた。私を見下ろす。マスクの奥にあるその瞳からは、何も読み取れなかった。
「それで?」声に微かな面白がりが滲んでいる。「まだ後悔してるのか?」
私は頬の内側を噛んだ。「分からない。全部があっという間で」
「あっという間?」低く笑う声。そして彼は屈み込み、その荒々しい指で私の腰の柔らかい肉を掴み、軽く握った。「お前の体は、そうは思ってなかったみたいだがな」
その馴染みのある圧力に、脈が乱れた。
彼は手を離し、姿勢を正した。「気をつけて帰れよ」
そして彼は去っていった――名前も、連絡先も残さず、振り返ることすらなく、人混みへと呑み込まれていった。
私は床に座り込み、彼が消えた空間を見つめていた。何かを与えられたのではなく、奪い去られたような気分だった。
どうやって立ち上がったのか覚えていない。どうやってコートを見つけたのかも。クラブ「深淵」の扉を押し開け、午前一時の冷気が顔に当たった時、その鋭い冷たさが私をまっすぐに貫いた。
五分後にタクシーが現れた。私は後部座席に丸くなるように座った。運転手はルームミラー越しに私をちらりと見て、少し躊躇ったようだが、何も言わなかった。
窓の外は、すべてが完全に日常の風景だった。しかしコートの下では、レーストップスの肩紐が一本引きちぎれ、私の体には先ほど起きたことの証拠がまだはっきりと刻まれていた。
スマホが震えた。美咲からだ。
「瑠衣、どこにいるの!? 仮面パーティーはもう終わったのに、まだ帰ってこないの!?」
私はしばらく画面を見つめ、こう打ち返した。「今帰ってるところ」
車は佐々木公園を通り抜けていく。私は目を閉じた。頭の中では同じ映像が何度も再生されていた――彼の手、彼の声、完全に支配されるあの感覚。そして、あの最後の言葉。「気をつけて帰れよ」。それはほとんど気遣いのように聞こえたけれど、間違いなく別れの言葉だった。
アパートに戻ったのは、午前二時になろうとする頃だった。美咲はソファに座って待っていた。私を一目見ただけで、彼女はすべてを察した。
「ちょっと、瑠衣」彼女はマグカップを置いた。「その顔」
私は彼女の隣にどさりと座り込んだ。数秒間黙ったまま、それから頷いた。
「誰と?」
「分からない」私は言った。「顔すら見えなかったから」
美咲は息を呑んだ。一瞬、彼女の瞳にあった興奮が、もっと鋭い何かへと変わる。「待って……大丈夫なの? 乱暴されたの?」
「私が望まないような乱暴はされてない」私は答えた。
彼女は私を見つめ、言葉の意味を理解しようとした。やがて心配の色は消え去り、全く別の感情が浮かび上がる。「つまり――クラブで――全くの赤の他人と――」
「うん」
彼女は私の腕を掴んだ。「それで、実際どうだったの? 誤魔化さないでよ」
彼女を見つめる。嘘をつく気にはなれなかった。
「最初は痛かった」私は言った。「でも、途中から自分の中の何かのスイッチが入っちゃったみたいで」
「じゃあ、気持ちよかったの?」
「体はね」私は少し間を置いた。「体は、一切文句なんて言ってなかった」
「嘘でしょ」彼女は背もたれに寄りかかり、微塵も隠そうとしない羨望の眼差しで私を見た。「また会うつもり?」
「ううん。名前すら教えてくれなかったし」
「最低な奴」
「でも、変な話だけど――」私は言葉を区切った。「この方がよかったのかも」
彼女は首を傾げた。「本当にそう思ってる? だって、まだ彼のことを考えてるじゃない」
私は答えなかった。彼女の言う通りだったから。
「大げさね」美咲はそう言って、少し笑った。「本当にそんなに良かったの?」
私は何も言わず、ただ立ち上がり、スカートの裾をめくり上げた。
美咲の笑顔が消えた。
私の内股には――肌に食い込んだ、見間違えようのない濃い紫色の指の痕が残っていた。
「嘘……」彼女は静かに呟いた。
「体が覚えてるの」私はスカートの裾を下ろした。
彼女は私を見上げた。その瞳の奥で、何かが変化していた。
「分かった」言葉を選ぶように、彼女は慎重な声を出した。「教えて。本当のところ、どんな感じだったの?」
