第10章 嵐が来る

午前二時半。圭一は音もなく自宅の玄関を開けた。闇に慣れた目で室内を見渡し、照明のスイッチには触れない。敵の〝目〟と〝耳〟が、この家のどこかで息を潜めている。その事実が、皮膚を粟立たせるような不快感となって背筋を伝った。

暗視ゴーグル越しに覗く世界は、緑色の不気味な輪郭を浮かび上がらせる。圭一はプロの捜査官として、仕掛けられやすい場所を熟知していた。リビングのテレビ裏、寝室のベッドサイドテーブルの死角、書斎の本棚の裏――予測通りの場所に、超小型の監視装置が冷たく鎮座していた。

紬との思い出が詰まったこの家が、見知らぬ敵意に汚されている。その事実に、腹の底から熱い怒りが込み上げた。だが...

ログインして続きを読む