第6章 記憶の約束

「圭一さん、私、そろそろ失礼しますね」

美香が玄関でバッグを手に、くるりと振り返った。

「明日も仕事の準備がありますので。もし何かお手伝いできることがあれば、いつでもご連絡ください」

圭一は頷き、彼女を見送った。ドアが閉まった瞬間、家全体が恐ろしいほど静まり返る。一人玄関に立ち尽くし、見慣れたはずのすべてを見渡す。紬のピンク色のスリッパが、まだきちんと戸口に揃えられていた。まるで今にも彼女がドアを開けて、「ただいま!」と言って帰ってくるかのようだ。

「すまない……全部、俺のせいだ……」

もし俺があの忌々しい任務を引き受けなければ。もし紬に真実を打ち明けられていたら。もし...

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