第8章 仮面の下の真実
早朝の陽光が薄雲を透かし、潮見島を淡く照らし出している。だが、夏川圭一の心は、夜明け前の海のように昏く、重かった。
今日は、妻・紬の追悼会だ。
圭一は黒のスーツに袖を通し、胸に白菊を挿した。鏡に映るのは、憔悴しきった蒼白い自分の顔。その瞳の奥には、三日前の夜の光景が、今もなお焼き付いていた。
――月光の下、密輸犯とL国語で言葉を交わす美香。そして、冷たく煌めいていた彼女の拳銃。
「……いつまで芝居を続けるつもりだ」
圭一は鏡の中の自分に、というよりは、これから会うであろう女に向けて、低く呟いた。
追悼会場に設えられた村長の家の和室には、すでに荘厳な空気が満ちていた。...
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チャプター
1. 第1章 台風前夜
2. 第2章 消えた潮騒
3. 第3章 波の証言
4. 第4章 スパイ
5. 第5章 嵐が来る前

6. 第6章 記憶の約束

7. 第7章 潮汐表の秘密

8. 第8章 仮面の下の真実

9. 第9章 夜の嵐

10. 第10章 嵐が来る

11. 第11章 嵐の中の対決

12. 第12章 嵐の後


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