第28章 葡萄棚の下

寮監は二人が戻ってくるなり、まずノアの目をじっと見つめた。

「見えるようになったの?」

「まだです。ルベンス様が薬を調合してくださって」

女はしばらく残念がってみせてから帳面を開き、小沢かなに新しい部屋と同室の相手を選ばせた。

けれど小沢かなは、相変わらず葡萄棚のほうを指さす。

「わたし、あの部屋がいい。掃除も自分でします」

「だめよ。ずっと誰も住んでないもの」

寮監は指でページを叩き、別の部屋を二つ挙げた。同室の子は静かで、入れば休める、と。だが小沢かなは目も向けない。頭にあるのは葡萄棚の向こうだけだった。

壁一枚隔てているだけ。彼が出るときも帰るときも、前よりずっと彼女に...

ログインして続きを読む