第29章 一剣

「彫像をわたしに渡してくれて、ようやく完了ってことになるの」

小沢かなは追い打ちのように付け足した。ノアはベッドの梯子にもたれ、うなずいて「わかった」と言う。すると彼女は、いつから始めるのかと重ねて訊ね、ついさっき拭いたばかりの机の上をぐるりと見回した。

彫刻刀に石材、下絵を描く筆――買いそろえなきゃ。

数えかけたところで、ノアが手を引いた。

「エステル、もう行く」

名残惜しい。けれど、彫刻刀がない今の彼女に、彼を引き留める術はない。せめて玄関までついていき、「また明日ね」を二度言った。

銀髪が葡萄棚の向こうへ消えても、彼女はまだ戸口に手を添えたまま立っていた。背後からココに呼ば...

ログインして続きを読む