第54章

 彼女の睫毛がひどく震えている。けれどレインの眼前に浮かんだのは、別の顔だった。泥にまみれて、醜くて、口の端だけが狡猾に吊り上がっている――獲物がかかるのを待つ狐みたいな顔。皮膚の下を駆ける血が、ふいにまた灼けるように熱くなる。

「セシリー、くだらない妄想はしまえ」

 レインは珍しく、乱暴な口調で言った。

「レイン様……以前は、そんなふうにおっしゃいませんでした」

 まるで仮説が、唐突に現実へと姿を変えたみたいに。

 セシリーは気づく。いざこの瞬間が来ても、自分は想像していたほど苦しくない。むしろ――少年の視線が自分をかすめ、姉へと落ちたあのときのほうが、痛みはずっと激しく、徹底し...

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