第92章

「ノア、お腹すいた」

 青白い医務室を出た途端、真っ白な木綿のロングドレスを着せられた少女が、隣を歩く少年の袖をきゅっと掴んだ。

「……ほんとに、お腹すいた」

 そう言い終えるや否や、腹の奥が「ぐぅぅ……」と鳴った。湖の底で過ごしたあの時間が、いやでも脳裏によみがえる。

 そのとき、ノアがふっと手を開いた。

 掌の上には、見覚えのある紫色の小さな実がひとつ。水気が抜けていて、しわしわで、正直おいしそうには見えない。

「まさか……持ってきたの?」

 少女は目を丸くする。

「僕じゃない。君だ」

 少年は横顔のまま、光を灰がかった緑の瞳に受けた。

「……上着の中に入ってた。エス...

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