第152章 動かないで

「待て!」

池田守は怪訝そうに振り返り、水島三久に目を向けて尋ねた。

「若奥様、ほかにご用命で?」

水島三久は周りの車の流れを確認し、少し先を指さす。

「池田さん、あそこまで前に出してもらえますか。そこで降りたいです」

「戻るつもりか」

それまで黙っていた天野真司が、ふいに口を開いた。声はひやりと鋭い。

まぶたがわずかに落ち、瞳の奥に浮いた苛立ちが隠される。

――あの先輩に送らせる気か?

水島三久はこくりと頷き、真面目に言った。

「さっきメッセージが来て飛び出してきたので、スマホと財布をリハーサル室に置いたままなんです。取りに行ってからじゃないと、一緒に行けません」

その...

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