第56章 天野さんが甘えてくるようになった

一斉に、全員の視線が個室の扉へ吸い寄せられた。

天野拓也は、別の店員が何かを運んできたのだと思い、傍に立つ店員へ目配せして扉を開けさせる。

ところが入ってきたのは、スーツ姿の男だった。

手提げ袋を提げ、にこにこと愛想笑いを貼りつけたまま、部屋の中を見回して言う。

「藤井さんは、どちらでしょうか」

藤井愛奈は訝しげに眉を上げた。男の手元の袋にはパラのロゴ。誰かからの贈り物だろうと当たりをつけ、軽く手を上げる。

「私です」

スーツの男はすぐに近づき、袋を彼女の手に渡した。

そして彼女のドレスを上から下まで一度だけ品定めするように眺めてから、丁寧に言葉を整える。

「このたびは当店...

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