第57章 怒らせた

「さっきの酒、誰が頼んだ?」

その声は後部座席との仕切り越しに、まっすぐ池田守の耳へ突き刺さった。

池田守は反射的にルームミラーへ目をやった。だが後ろは遮蔽板で塞がれている。天野真司の顔どころか、表情など見えるはずもない。

それでも、苛立ちを隠さない声音だけで分かった。若様は、怒っている。

「えっと……」

二秒ほど迷ってから、池田守は結局、天野遊星を売った。

「お酒は、遊星様が」

「……」

言い終えた途端、車内はまた、しんと静まり返った。

――これで終わったか。

そう思って息を抜きかけた瞬間、天野真司の冷えた声が落ちてくる。

「最近、ずいぶん暇そうだな。天野グループが投...

ログインして続きを読む