第82章 足りなかった

そのとき彼女は、彼には好きな相手がいるのだと思っていた。だからこそ、次善の策を選んだのだ。

けれど彼は、藤井愛奈のことは好きじゃないとはっきり言った。――それって、つまり自分にもまだ可能性があるってこと?

水島三久の胸の内は一瞬、荒波みたいに騒いだ。だが、すぐに押し込める。

……いや、違う。藤井愛奈が違うというだけで、ほかに好きな人がいないとは言っていない。

なら、ちゃんと聞かなきゃ。

もし本当に好きな相手がいて、ある日いきなり現れでもしたら――彼女はまた、前と同じことを最初からやり直す羽目になる。

それだけは嫌だ。絶対に嫌。

今回は、手を出す前に必ず確かめる。先に、全部。

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