第7章

堀川純平の声は冷たく、絶対に逆らえない命令口調を帯びていた。

野口雅子の短気な性格はその瞬間に火がついた。

一度追い出すだけでは足りず、二度目も追い出そうというのか?

部長が傍らで小声で口を開いた。「堀川社長、こちらは増田執事が手配されたお客様です」

堀川純平の目の底に、一瞬冷たい光が走った。

この女は一体どういうことだ?彼の側近のアシスタントを知っているだけでなく、堀川家の執事まで知り合いなのか?

彼が知っているのは執事の性格だけだ。よほど重要な人物でなければ、自分のリソースを使ってここで席を手配したりはしないはずだ。

「では彼女だけ追い出せ」

堀川純平の視線は冷たく深かった。

アシスタントは傍らで震えながら口を開くことができなかった。

今、堀川社長に奥様の身分を告げれば、この問題は解決するかもしれない。

しかしアシスタントが口を開こうとする前に、野口雅子から哀願するような視線を受け取った。

言ってはいけない、絶対に言えない。

野口雅子はすでに自分の今後の運命を感じ取っていたようだった。もし今ここで正体がばれてしまえば、離婚の話は遠のくに違いない!

杉本由紀子も傍らで眉をひそめていた。

彼女も今や野口雅子の身分に非常に興味を持っていた。

以前は野口雅子を貧しい学生だと思っていただけだった。

だが今見ると、事態はそれほど単純ではないようだ。

しかし、彼女は堀川純平が野口雅子に向ける嫌悪の眼差しをはっきりと見て取った。

これは外の女たちが堀川純平に近づき、彼の注目を引くための新しい手段かもしれない!

杉本由紀子は急き立てるように言った。「堀川社長の命令が聞こえなかったのですか?早くこの女を追い出してください」

アシスタントの顔には困惑の色が浮かんでいた。一方には堀川社長、もう一方には奥様、どちらも敵に回せないのだ。

堀川純平の忍耐はほぼ尽きかけていた。冷たい視線がアシスタントを一瞬で見据え、深い声で言った。「何をぼんやりしている?こんな小さなことさえできないのか?」

アシスタントはまるで黄連を丸飲みしたような顔をしていた。

黄連を食べた哑巴のように、苦しくても言えない。

彼がまだ何か言おうと頭を抱えていたその時、野口雅子はついに耐えきれなくなった。

「ねえ堀川社長、あなたは上場企業の社長でしょう?そんなに小心者じゃないでしょう、私みたいな学生にそこまでこだわるなんて。あの日居酒屋であなたにキスしただけじゃないですか?本当のところ私の方が損してるんですよ。精神的苦痛に対する補償も求めてないのに、あなたはここで私を追い詰め続けている」

彼女の口から出る言葉は一気に火力全開だった。

彼女はもう十分我慢してきた。さっき階下でも堀川純平は彼女を辱め続けていた。

これまで野口雅子が堀川純平について知っていたことは、すべて雑誌のインタビューからだった。

天才的なビジネスマン、世界で最も若い社長。

冷酷無情な手腕の持ち主。

しかし彼がプライベートでこんなに小心者で、細かいことにこだわるとは思わなかった。

原田明と中村明美たちは顔を見合わせ、頭の中に同じ考えが浮かんだ。

野口雅子は薬でも飲み間違えたのか?それとも精神的に正常じゃないのか?

どうして堀川純平にそんな言い方ができるのか?これは堀川純平なのだ、指一本動かすだけで彼らを一瞬で潰せる男だ。

堀川純平の細長い目がゆっくりと細められ、彼から放たれる冷たい低気圧は、彼らが目を合わせることさえ恐れるほど強かった。

彼の目には大きな皮肉と軽蔑が混ざっていた。

「お前がいる場所は空気が汚れるだけだ」

彼の言葉には、わずかながら殺意さえ感じられた。

傍らのアシスタントは一瞬で野口雅子のために息を飲んだ。

彼はよく知っていた。堀川社長がこの調子で話すのは完全に怒りの前兆だった。

もし他の人なら、とっくに膝をついて許しを請うていただろう。

中村明美は必死に野口雅子の袖を引っ張り、この瞬間頭の中にあるのはただ一つの考えだけだった。ご先祖様、もう話さないでください。

今は意地を張るときではない。

野口雅子は見なかったふりをして、依然として皮肉な目で堀川純平を見つめていた。

「あなたの言い方だと、ここの空気はすべて私によって汚されているわけだから、あなたこそ出て行くべきじゃない?あなたも私に汚されたんでしょう?ビルから飛び降りるつもり?」

一言一句が野口雅子の短気な性格を表していた。

今日これを我慢したら、彼女は一晩中眠れないだろう。

言葉が落ちた瞬間、5階全体が死のような静寂に包まれた。

すでに同情と哀悼の目で野口雅子を見ている人もいた。

若いというのはいいものだ、確かに死を恐れない、よくも堀川社長を怒らせる勇気があるものだ。

杉本由紀子の顔色はすでに何度も変わり、歪んだ目には嫉妬の色が透けて見えた。

彼女は今聞き間違えたのだろうか、この女が堀川純平に強引にキスしたというのか。

やはり、これが彼女の取り入って堀川純平を誘惑する手段なのだ。

「厚かましい人は見たことがあるけど、あなたほど厚かましい人は見たことがない。学生のくせに勉強に集中せず、男性を誘惑することばかり考えているなんて、雀が枝に飛んで鳳凰になりたいとでも思っているの?」

野口雅子は胸の前で腕を組み、皮肉な目で杉本由紀子を見つめた。「おばさん、まだここで見物してるの?さっきあなたに早く注射でもして顔のシワをケアしたらどうかって言ったでしょ?自分が取り入りたいからって、みんなをあなたと同じように汚いと思うの?」

冗談じゃない、彼女と堀川純平の間は、法律で保護された合法的な夫婦関係だ。二人の名前は今でもあの赤い証明書に書かれている。

杉本由紀子が堀川純平の既婚状態を知っているかどうかはともかく、この皮肉な態度だけでも、野口雅子はどうしても我慢できなかった。

野口雅子の攻撃力は一瞬でMAXに達し、杉本由紀子を言葉も出ないほど怒らせた。

「上野インターナショナル全部があなたたちのものだとでも思わないでください。私たちは普通に食事をしに来て席を予約しただけなのに、なぜ追い出されなければならないの?」

この言葉に、全員の目に意外な色が走った。

ただ堀川純平の目の底だけが冷笑を浮かべていた。

アシスタントはすでに傍らで黙って顔を覆っていた。

奥様と堀川社長は3年間結婚しているのに、こんな基本的なことも知らないのか?上野インターナショナルは堀川社長のものなのに。

原田明は声を極限まで抑えて忠告した。「雅子ちゃん、早く引き下がろう。上野インターナショナルは本当に堀川社長のものだよ、私たちには敵わない!」

今の堀川純平から放たれる低気圧だけでも、彼の足はすでに震えていた。

普段なら10倍の勇気があっても、堀川純平に逆らう勇気はないはずだ。

あの男は街の経済の3分の2を操る男だ、彼らには敵わない。

野口雅子の頭は一瞬止まり、疑わしげに原田明を見た。「今何て言ったの?上野インターナショナルは彼のもの?」

「そうだよ!」

中村明美はアイコンタクトを送り、目尻がつりそうになっていた。

「お願いだから黙って。今私たちがすべきことは、すぐに堀川社長の前から逃げ出すことだけ」

この時の野口雅子は、まだ我に返れない状態だった。

このショッピングモールが堀川純平のものだとすれば、それは彼女がここの女将ということになるのだろうか?

彼女がこの場所の女将?

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