第143章 川瀬千茉の妊娠

「真様、江口嬢。ようやくお見つけしました」

執事の声が遠くから飛んできた。江口初姫は、こちらへ近づいてくる男の気配に気づく。――この場面を見られたら。まして音無爺様の耳に入ったら。婚約解消の話なんて、そう簡単には済まなくなる。

「離して。あなたのいちばん大事な千茉に見られたら、また『わざと誘惑した』とか言われるでしょ」

江口初姫が手首を引き抜こうとした瞬間、音無真は「川瀬千茉」の名に反応したように、ぱっと手を離した。

手首に残った赤い痕。初姫は鼻で笑う。

――理解できない。心に別の女がいるくせに、他の女には平気で触れて、さも深情けみたいな顔をする。

「江口初姫、そういう意味じゃ…...

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