生まれ変わった後、人生を自分の手に

生まれ変わった後、人生を自分の手に

水瀬 しおり​ · 連載中 · 229.1k 文字

1k
トレンド
3k
閲覧数
69
追加済み
本棚に追加
読み始める
共有:facebooktwitterpinterestwhatsappreddit

紹介

婚約のその日、私ともう一人の女は何者かに誘拐された。

誘拐犯は夫に選択を迫り、私はただ見ていることしかできなかった——彼が、彼女を選ぶのを。

冷たく骨の髄まで凍える海へと身を投げた瞬間、凄まじい生存本能のなせる業か、運命は私に二度目の生を授けた。

そして、生まれ変わった私が真っ先にしたことは、ただひとつ。

「婚約を、破棄する。」

チャプター 1

「音無真。ひとりはお前の妻、ひとりはお前の初恋だ。この二人の女、選べるのは片方だけ。――どっちを死なせる?」

船の甲板。海面から十数メートルの高さに、女が二人、吊るされている。誘拐犯が拳銃をかざし、怒鳴り散らした。

新婚当日、江口初姫はさらわれた。

十分前、無理やり薬を飲まされ、いまは四肢の奥まで激痛が走っている。立っているのがやっとで、純白のウエディングドレスは泥と潮にまみれ、見る影もない。

二択を突きつけられ、江口初姫は最後の希望を込めて岸辺の男を見た。冷たく、気高く、感情を一切見せない――婚約者の音無真。

「音無真……助けて……」

川瀬千茉も必死に声を上げる。頬には乾ききらない涙の跡。泣き濡れた目で縋りついた。

「真さん……本当に痛いの……」

音無真の瞳は底なしに暗い。ほとんど迷いもなく、答えた。

「俺は――彼女を選ぶ」

指さしたのは江口初姫。つまり、彼女を死なせるという意味だった。

江口初姫は息を呑み、目を見開く。胸の奥が真っ二つに裂けたみたいで、身体の痛みなど霞むほどだった。

川瀬千茉が彼の初恋だということは知っている。けれど、三年も一緒にいたのに。自分には欠片ほどの情もないの? 躊躇なく、死を選ぶの?

そもそも音無真は婚礼衣装ですらなかった。最初から、江口初姫と結婚するつもりなどなかったのかもしれない。

今日だって、彼が「待ってろ」と言ったから――そこを狙われた。

誘拐犯は意外そうに眉を上げ、次の瞬間、腹を抱えて笑った。

「さすが音無社長。情け容赦なしだな。結婚したての奥さんより初恋を取るとは、面白ぇ」

音無真が眉をひそめ、冷たく言い放つ。

「選んだ。さっさと放せ」

誘拐犯は川瀬千茉を突き飛ばすように前へやった。

「社長が選んだんだ。悪いな、江口さん。今日は死んでもらう」

言い終えるなり、銃口が江口初姫の額に押し当てられた。

――なのに。

川瀬千茉が近づいた瞬間、音無真は江口初姫を一度も見ない。千茉だけを、怯えるほどの警戒と焦りで確かめる。

「千茉、大丈夫か? 怪我は?」

川瀬千茉は下唇を噛み、首を振った。視線だけが迷いながら江口初姫へ向く。

「私は平気……でも、江口さんはどうなるの?」

江口初姫は何も言わなかった。

誰も気づかない。彼女の手の中には、ちぎれたロープの切れ端が握り締められている。角度によっては、まだ縛られているように見える。

――実は、連れ去られてすぐに、彼女は密かに縄を解いていた。

生きられる。逃げられる。

でも、いま――音無真が彼女を選んだ。なら、自分は死ななければならない。

「音無真。私がこの世でいちばん後悔してるのは――あなたを愛したこと」

死んだ目で、けれど揺るぎなく。

言い終えると同時に、江口初姫は振り返り、ためらいなく海へ身を投げた。

どぷん、と。

冷たい海水が一気にせり上がり、口と鼻を塞ぐ。

身を翻した刹那、音無真の叫び声が聞こえた気がした。けれど、もうどうでもいい。

荒れ狂う海が、江口初姫を丸ごと呑み込んでいく。

意識が途切れるその直前、彼女は思った。

――もし戻れるなら。二度と、音無真なんて愛さない。どれほどの欠片も。

……

「ははっ、見て。あの顔、ウケる」

「真さんに釣り合わないのよ。手段で取り入る女って、いちばん嫌い」

「でも泳げないっぽくない? プールに落として、真さんがキレたらどうすんの」

「平気平気。真さん、あいつ大嫌いだもん。昔、おばさんと真さんの世話してたから、仕方なく――ってだけでしょ」

嘲りと蔑みの声が、耳の奥に刺さってくる。

江口初姫は、はっと目を開けた。

視界一面、水。けれど海じゃない。――プールだ。

必死に手足を動かし、ばしゃばしゃと水面に顔を出す。

そこにいたのは、音無真の取り巻きたち。さっき彼女を突き落とした張本人。

頭の中が、ぶん、と鳴った。見開いた目に困惑が溢れる。

――どういうこと? なぜ、こんなに……。

これは、一年前の――音無真との婚約パーティーの夜。

考えている暇はない。江口初姫はプールの縁に爪を立て、濡れた身体を引き上げた。

全身びしょ濡れ。風が吹いた瞬間、ぶるっと寒気が走る。

背後から、不機嫌で、露骨な嫌悪を含んだ声が飛んだ。

「いつまでそこで恥さらしてるつもりだ?」

振り向くと、音無真の冷え切った目が真正面にあった。

優しさも心配もない。問いかけすらなく、最初から「恥さらし」と断罪する目。

取り巻きがすぐに口を挟む。

「真さん、あの女わざと飛び込んだんじゃないっすか? 真さんに助けさせて、英雄救美の芝居でもしたいんですよ」

音無真は眉をひそめ、隠す気もない苛立ちを滲ませた。

「誰が道化を助ける?」

江口初姫はその場で立ち尽くし、拳を強く握り締めた。

道化――。

前の人生の婚約パーティー。音無真は途中で姿を消した。

継母の増田梅は音無家との縁談の利益欲しさに、病床の外公を盾にして「最後まで婚約の儀をやれ」と江口初姫を追い詰めた。

あの日、江口初姫は川城最大の笑いものになった。

皆は「江口初姫がプールで醜態をさらしたから音無真が帰った」と思っていた。

違う。

彼は帰国したばかりの川瀬千茉に会いに行っていただけ。夜まで戻らなかった。

音無真が苛立たしげに言う。

「まだ突っ立ってるのか。早く着替えろ。客がもうすぐ来るだろ。こんな格好を見せる気か?」

江口初姫は、かすかに口元を吊り上げた。皮肉がにじむのを自分でも感じる。

何も言わず、踵を返す。

視界の端に、追ってくる増田梅が映った。

江口初姫が更衣室に入ると、増田梅もついてきて、低い声で釘を刺した。

「江口初姫、いい? 今日の婚約パーティーは絶対に成功させるのよ。少しでもしくじったら、江口家に戻れると思わないことね」

江口初姫は冷たい目で見返す。

「着替えるから、出て」

増田梅はさらに不満げに鼻を鳴らした。

「その口の利き方は何? 音無真があんたに冷たいのは、あんたが頭も悪いし、役に立たないからよ。とにかく、音無真が逃げたら覚悟しなさい!」

脅すだけ脅して、増田梅は出ていった。

江口初姫の瞳は、さらに冷えた。

濡れたドレスを脱ぎ捨て、普段の服に着替える。

更衣室を出ると、音無真はすでに客に囲まれ、媚びた言葉を浴びていた。

生まれつき、人の視線を集める男。そこに立つだけで、自然と目が吸い寄せられる。

音無真も江口初姫に気づいた。彼女の服装を見るなり、不快そうに目を細める。

だが今回は、彼に口を開かせなかった。

江口初姫はそのまま壇上へ上がり、用意されていたマイクを握る。

声は落ち着いていた。ひとつひとつ、はっきりと告げる。

「本日はお忙しい中、この婚約パーティーにお越しいただき、ありがとうございます。皆さまにお伝えしたいことがあります」

会場中の視線が、彼女へ集まった。

最新チャプター

おすすめ 😍

夜に沈む

夜に沈む

7.9k 閲覧数 · 連載中 · 洛陽柱
初恋の相手は、百万ドルと引き換えに私を捨てた。そうして私は、望まぬ政略結婚へと追いやられた。

あれから五年。彼が再び私に会おうとした、その時——夫がそのすべてを知ることになる。
私が彼を滅ぼした――だから、今度はこの命を捧げて守り抜く

私が彼を滅ぼした――だから、今度はこの命を捧げて守り抜く

4k 閲覧数 · 連載中 · 南宮
愛する人を殺めた罪の重さ、その疼きを私は決して忘れない。
二度目の生を得た私は、かつて私が踏みにじった孤独な王のもとへ再び舞い戻った。
「未来」という名の禁断の知恵を、唯一の嫁入り道具として。
彼に差し出される毒も、背後に潜む暗殺の罠も、すべて私の視界の中にある。
これは彼を導くための道標であり、魂の誓い。
彼を闇へ堕としたかつての私は、もういない。
今、私は彼を守り抜くために全てを焼き払う、最も鋭き刃となる。
離婚後、ママと子供が世界中で大活躍

離婚後、ママと子供が世界中で大活躍

180.4k 閲覧数 · 連載中 · yoake
18歳の彼女は、下半身不随の御曹司と結婚する。
本来の花嫁である義理の妹の身代わりとして。

2年間、彼の人生で最も暗い時期に寄り添い続けた。
しかし――

妹の帰還により、彼らの結婚生活は揺らぎ始める。
共に過ごした日々は、妹の存在の前では何の意味も持たないのか。
家族の縁を切った日、兄たちはすべてを失った

家族の縁を切った日、兄たちはすべてを失った

368.6k 閲覧数 · 連載中 · 風見リン
前の人生で両親が交通事故で亡くなった後、長兄は世間体を気にして、事故を起こした運転手の娘を家に引き取った。
公平を期すという名目のもと、兄たちは彼女からリソースを根こそぎ奪い、その尊厳を踏みにじってまで、運転手の娘を支えた。
彼女は兄たちのためにすべてを捧げたというのに、家を追い出され、無残に死んだ。

生まれ変わった今、彼女は人助けの精神などかなぐり捨てた。許さない、和解しない。あなたたちはあなたたちで固まっていればいい。私は一人、輝くだけ。

兄たちは皆、彼女がただ意地を張っているだけだと思っていた。三日もすれば泣きついて戻ってくるだろうと高を括っていたのだ。
だが三日経ち、また三日経っても彼女は戻らない。兄たちは次第に焦り始めた。

長兄:「なぜ最近、こんなに体調が悪いんだ?」――彼女がもう滋養強壮剤を届けてくれないからだ。
次兄:「会社のファイアウォールは、なぜこうも問題ばかり起こす?」――彼女がメンテナンスに来なくなったからだ。
三兄:「新薬の開発が遅々として進まないのはなぜだ?」――彼女が治験をしなくなったからだ。
四兄:「どうしてこんなにつまらない脚本しか上がってこない?」――彼女がもう執筆しないからだ。
五兄:「この義肢は、なぜこんなに出来が悪いんだ?」――彼女が製作をやめたからだ。
六兄:「なぜチームが負けた?」――彼女が脱退したからだ。

兄たちは地に膝をついて許しを請うた。「戻ってきてくれ。俺たちこそが、血を分けた本当の家族じゃないか」

彼女は絶縁状を兄たちの顔に叩きつけ、冷ややかに笑った。
「車が壁にぶつかってから、ようやくハンドルを切ることを覚えたのね。株が上がってから、ようやく買うことを覚え、罪を犯して判決が下ってから、ようやく悔い改めることを覚えた。残念だけど、私は――許さない!」
偽物令嬢の逆転劇

偽物令嬢の逆転劇

75.1k 閲覧数 · 連載中 · ひかり
「泥棒女め、今すぐこの家から出て行きなさい!」

実の娘が戻ってきたその日、私はゴミのように家を追われた。
病弱な「お嬢様」の生きる輸血パックとして虐げられ、血を搾り取られ続けてきた日々。用済みになった途端、身に覚えのない盗みの罪を着せられ、婚約者からも冷酷に捨てられた。
元家族たちは、私が「貧しい田舎で野垂れ死ぬ」と信じて疑わなかった。

だが、彼らは何も知らなかったのだ。
私が、世界中のVIPが縋る伝説の名医であることも。
私を迎えに来たオンボロトラックが、実は国家機密級の超高級カスタムマシンであることも。
そして、私の本当の実家が、国さえも動かす世界屈指の超巨大財閥だということも!

「今まで苦労をかけたね、私たちの可愛いお姫様」
生き別れていた超過保護な両親と、各界の頂点に君臨する最強の兄たちに狂おしいほど溺愛されるシンデレラライフが幕を開ける!
一方、大切な「命の恩人」を自ら捨てた元家族たちには、破滅へと向かう絶望の後悔タイムが待ち受けていて!?

虐げられた天才少女が本当の愛と富を掴み取る、逆転ファンタジー、ここに開幕!
不倫夫を捨て、私は大富豪の妻になる

不倫夫を捨て、私は大富豪の妻になる

273.5k 閲覧数 · 連載中 · 七海
人生最良の日になるはずだった、結婚式当日。
新郎の車から出てきたのは、見知らぬ女の派手なレースの下着だった。

しかも、その布切れにはまだ。生々しい情事の痕跡が残されていた。

吐き気がするほどの裏切り。
幸せの絶頂から地獄へと突き落とされた私。

けれど、泣き寝入りなんてしてやらない。
私はその場でウェディングドレスの裾を翻し、決意した。

「こんな汚らわしい男は捨ててやる」

私が選んだ次の相手は、彼など足元にも及ばない世界的な億万長者で?
殺されたので戻りましたが、元夫の宿敵に執着されています

殺されたので戻りましたが、元夫の宿敵に執着されています

17.1k 閲覧数 · 連載中 · しらとり ちおり
前世で自分を殺した夫から逃れるため、必死の思いで飛び込んだ部屋。
そこにいたのは、あいつの最大最凶の「宿敵」だった――。

上半身裸の彼に壁へと押し付けられた私は、耳元でその低く甘い声を聴く。
「他の女たち?……どいつもこいつも、もっと優しくしてくれって泣いて縋ってくるがな」

ただの一時しのぎのはずだった。なのにその夜を境に、この危険な男は私に執着し、決して離そうとしない。

前世の夫への復讐を誓い、罠を仕掛けた「復讐劇」の舞台が間近に迫る中。
不敵に微笑む彼は、本当に式場をぶち壊しに現れるつもりなのだろうか――?
二度目はない 動じず咲く

二度目はない 動じず咲く

108k 閲覧数 · 完結 · Gloria Fox
結婚式の一ヶ月前、私は一年かけて自らの手で縫い上げたウェディングドレスを燃やした。

婚約者は身ごもった愛人を腕に抱き寄せたままそこに立ち、私を鼻で笑っていた。「俺がいなきゃ、お前なんて何の価値もない」

私はきびすを返し、この街で最も裕福な男の扉を叩いた。「ロック氏、政略結婚にご興味はおありですか? 千億ドル相当の株式――それに加え、未来のビジネス帝国も無料でお付けいたしますわ」
天才調香師の復讐

天才調香師の復讐

54.7k 閲覧数 · 連載中 · 文机硯
私は間違った相手に感情を注いでしまい、クズ野郎とあの裏切り者の女に利用され、彼らは私の仕事の成果まで奪おうと企んでいました。

私は冷笑を浮かべ、そのクズへの復讐を誓いました。

私はある競合会社と契約を結びました。驚いたことに、その会社のCEOは異常な条件を出してきました——私と結婚しなければならないというのです!

それ以来、私はクズを打ち負かし、彼は私を愛おしく大切にしてくれました...実は彼は長年、密かに私のことを想い続けていたのでした。
マフィア姫の帰還

マフィア姫の帰還

38k 閲覧数 · 完結 · Tonje Unosen
タリアは何年ものあいだ、母と義理の妹、そして継父と暮らしてきた。だがある日、ついにそこから逃げ出すことに成功する。

ところがその直後、自分にはまだ外に家族がいるのだと知る。そして本当に自分を愛してくれる人たちが大勢いることも――そんなものは今まで感じたことがなかった。少なくとも、彼女の記憶にあるかぎりでは。

タリアは人を信じることを学ばなければならない。新しくできた兄たちにも、ありのままの自分を受け入れてもらわなければならないのだ。
舐めるつもり?なら、思い知らせてあげる

舐めるつもり?なら、思い知らせてあげる

25.5k 閲覧数 · 連載中 · 桜井 ゆい​
18年間、自分が実の娘でないとは知らずに生きてきた。ある日、荷物をすべて玄関の外に放り出され、街角に立ち尽くす私の前に現れたのは、噂では極貧だという「生家」から迎えに来た、見たこともない「兄」。

ところが、その兄が乗ってきたのはトラクターだった。

ガタガタと揺れるトラクターがたどり着いた先は、まるで古城のような大邸宅。そこで私は思い知る。本当の家族のもとに引き取られた私は、貧しくなるどころか、前よりずっと裕福になっていたのだ。

……だが、ちょっと待ってほしい。なぜ私には突然、婚約者というものが存在するのか。しかもその相手は、私の大学の教授だという。誰か、説明してくれないだろうか。
離婚後、奥さんのマスクが外れた

離婚後、奥さんのマスクが外れた

317.4k 閲覧数 · 連載中 · 来世こそは猫
結婚して2年後、佐藤悟は突然離婚を申し立てた。
彼は言った。「彼女が戻ってきた。離婚しよう。君が欲しいものは何でもあげる。」
結婚して2年後、彼女はもはや彼が自分を愛していない現実を無視できなくなり、過去の関係が感情的な苦痛を引き起こすと、現在の関係に影響を与えることが明らかになった。

山本希は口論を避け、このカップルを祝福することを選び、自分の条件を提示した。
「あなたの最も高価な限定版スポーツカーが欲しい。」
「いいよ。」
「郊外の別荘も。」
「わかった。」
「結婚してからの2年間に得た数十億ドルを分け合うこと。」
「?」