第29章 酔っ払い

江口初姫は全身の感覚がぼやけていた。突然触れられても身を引く間もなく、男にぐっと距離を詰められる。

彼女は目を細め、霞む視界の向こうを確かめようと、反射的に顔を寄せた。

それを「受け入れた」と勘違いしたのだろう。男はくすりと笑い、江口初姫の身体を自分にもたせかけるようにして囁く。

「江口社長、歩けます? ……よかったら、今夜はうちで休んでいきません?」

ねっとりした視線が、江口初姫の顔から、仕立てのいい服へと何度も滑る。

こういう場に長くいる連中は、相手を値踏みする目だけはやたらと肥えている。こいつは、とくに性質が悪い部類だ。

今日だって江口初姫を狙う人間は多い。けれど連中の大半...

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