第37章 不倫

川瀬千茉が去って、江口初姫の耳元はようやく静かになった。

音無真の言葉など最初から視界に入っていない。出てこいと呼ばれても、江口初姫はまるで聞こえないふりをして、音無爺様の看病を黙々と続けた。

扉の外に立たされた音無真は、面子を潰された気分だったのだろう。ぎゅっと拳を握り、低い声で苛立ちを抑えながら言う。

「一回、出てこい。二人で話す。爺様の前で惚けんな」

音無爺様が鋭い目で睨み、牽制する。

だが江口初姫は引かない。顔も上げず、さらりと刺した。

「私は後ろ暗いことなんてないもの。あなたみたいに、わざわざ外へ出て、人に隠れて話す必要ないでしょ」

嘲りの一撃に、音無真の顔が歪む。青...

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