第61章 江口初姫に取り入る

翌日、江口初姫はいつも通り出勤するつもりで家を出た。

階段を下りかけたところで、ふわりと食欲をくすぐる匂いが鼻先をかすめる。

……この家で、朝から台所に立つ人間なんている?

増田梅が料理をするはずがない。豊田麗華も、自分の嫁に手料理を振る舞うタイプじゃない。江口姫希に至っては、日が高くならなければ部屋から出てこないのが常だ。ましてや朝食を作るなんて――。

そう思って、ちらりとダイニングを覗いた初姫は、即座に自分の予想を引っ込めた。

そこにいたのは、本当に江口姫希だった。

エプロン姿で、やけに様になっている。何食わぬ顔で皿を運びながら、初姫を見つけると軽く声をかけてくる。

「朝ご...

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