第69章 矛盾の転移

白石嬢は今日、完全に風向きを持っていかれて、もともと機嫌が悪かった。

江口初姫のピアノが自分に劣らない――それ自体は、負けを認めるだけの器量はある。だがそれと、「自分の場」で、いいように利用されて主役を奪われるのを笑って飲み込むかは別問題だ。

江口初姫が口にした一言を聞いた瞬間、胸の奥に溜めていた苛立ちは、全部、江口姫希へ向かった。

白石嬢はそのまま、怒りに任せて江口姫希のもとへ歩いていく。

一方、江口初姫は落ち着いた手つきでグラスを傾け、軽く一口。

何も知らない顔の江口姫希と視線がかち合うと、初姫は静かな笑みを浮かべた。やわらかく、無垢に見えるほどの――。

なのに江口姫希は、な...

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