第29章

原崎野矢が、ちらりと私を見た。

私が口を開くより早く、彼はまた笑って言った。

「まさか俺が、昔みたいにまだバカだと思ってる? そんな、形もないくせに叶いもしないもんを欲しがるほど」

私は唇を開きかけて、結局なにも言えなかった。

「……まあいい。今度、俺がお前を使う時が来たら。その時に借りを返せ」

そう言いながら原崎野矢はもうスマホを手に取り、迷いなくある番号へ発信すると、スピーカーをオンにした。

「原崎様」

受話口の向こうから、秘書の無駄のない声が返ってくる。

「病院の入口の件、片付けろ」原崎野矢は短く命じた。

次の瞬間、秘書が恭しく答える。

「承知しました。すでに、煽っ...

ログインして続きを読む