第55章

私は頭の中が真っ白で、足元がふわふわしたまま家へ漂うように帰った。

玄関を入った瞬間、林原武美がリビングからコップを手に出てきて、眉をひそめる。

「ずいぶん早いじゃない。もう帰ってきたの? 寿宴は終わったの?」

頭の中は原崎野矢のあの一言でいっぱいで、返事をする気にもなれない。ただ小さくうなずいて、二階へ向かった。

背中のほうから、武美の愚痴まじりの声がかすかに聞こえる。

「正国、あの子見てよ。ほんと、どんどん生意気になって……年上の私のこと、眼中にないのかしら……」

聞こえないふりをして部屋へ戻り、ベッドに倒れ込む。熱い頬を枕に押しつけても、心臓はまだどくどくと暴れていた。

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