第72章

原崎野矢視点

病室のドアの前に立ち、吐き気を催すような光景を眺めていた。

田村成川が広瀬妃菜の手首をがっちり掴み、いかにも弱って苦しんでいるふりをしながら「頭が痛い」と訴えている。

妃菜は露骨に嫌悪を滲ませ、振りほどこうとしていた。

稚拙な同情誘いと挑発。俺の知能を侮辱しているとしか思えない。

目の奥の冷えを押し殺し、無表情のまま病室へ入る。視線はまっすぐ、少し青い妃菜の顔へ落ちた。

「怪我したのか?」

妃菜は俺を見るなり、瞳に一瞬の動揺を走らせた。すぐに力いっぱい首を振り、その勢いで田村成川の手を乱暴に振り払う。

そして、汚いものから逃げるみたいに、足早に俺の傍へ寄ってきた...

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