第78章

原崎野矢視点

「……それ、さすがに不適切じゃない?」

広瀬妃菜の声が、まだ耳の奥に残っている。拒絶が、これでもかというほど滲んだ声。

俺は最後まで言わせる気もなく通話を切り、眉間を指でつまんだ。どっと疲れが押し寄せる。

俺は何を期待していた?

広瀬妃菜が、迷いなく「うん」と頷くとでも思っていたのか。

彼女が俺を本気で好きだったことなんて、一度もない。

近づいたかと思えば、すっと離れる。必要なときだけ現れて、俺にだけ柔らかく甘える。

全部、見えていた。見えていたのに、俺はわざと見ないふりをした。

見ないふりをしている間だけは、たまに落ちてくる彼女の笑顔や甘えを、都合よく味わえ...

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