第85章

広瀬妃菜視点

私はオフィスの椅子に座ったまま、しばらく魂が抜けたように動けなかった。

コンコン、とドアが叩かれる。

野崎がスマホを握りしめて入ってきた。表情は硬く、空気まで張り詰めている。

「広瀬様……さっき、原崎グループのほうから連絡が入りまして……」

言い淀む声が、嫌な予感を確信に変える。

私は野崎を見上げ、淡々と尋ねた。

「何があったの?」

野崎は唾を飲み込み、言葉を選ぶようにして続ける。

「原崎様の秘書からです。今日から、どんな共同案件でも窓口は別の担当に切り替えるって……原崎様はもう表に出ないそうです。前と同じで」

そして肩をすくめた。

「今回は、原崎様は何に...

ログインして続きを読む