第88章

唇の端をきゅっと引き上げ、涼しい顔で言い放つ。

「私の予定を、金原さんに説明する必要はありません」

そう告げて、私はエレベーターを降りようとした。

ところが金原亜沙美は、いきなり私の腕を掴んで引き戻し、扉を閉める。

「行かないでよ。ここ、他に誰もいないじゃん。なんで避けるの? みんな知り合いでしょ?」

苛立ちが胸の奥でぐつぐつ煮え、私は反射的にその手を振りほどいて背を向けようとした。

その瞬間――足元が何かに引っかかる。

視線を落として、ようやく気づいた。金原亜沙美の足が、いつの間にかすっと前へ出ている。ここで転べば、原崎野矢の前で恥をかく。

もう二度とありえない相手だとして...

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