第6章

恵美視点

窓の外では、雪がしんしんと降り続いている。暖炉ではぱちぱちと火が爆ぜ、十二月の冷たい午後に暖かな炎が踊る。私はピアノの隣で智樹のそばに座り、その小さな手が音階をなぞっていくのを見守っていた。

「上手よ、智樹くん。手首の力は抜くのを忘れないで。もう一度その音階を弾いてみて」

九歳の少年は鍵盤をじっと見つめ、集中して顔をしかめている。「こうですか、和泉先生?」

「完璧」私は手を伸ばし、彼の親指の位置を直してあげる。暖炉の暖かさが私の顔に触れる。私がここで思い描いていた冬は、まさにこんな感じだった。平穏で、素朴で、私だけのもの。

玄関のドアベルが鳴った。

智樹の...

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