第8章

恵美視点

崖の端に腰掛け、岩から足をぶらんと投げ出す。眼下では、暗く果てしない海が砕け散っている。携帯電話の電源は切り、ポケットの奥にしまい込んだ。遠くには、港町の教会の塔が、冬の空を背景に暖かな光を放っていた。

真夜中まで、あと数時間。新しい年。新しい始まり。

けれど、過去の人生の影が、私を休ませてはくれない。

コートの前をきつく引き合わせ、教会の塔を見つめる。指の関節が白くなるまで、両手を強く握りしめた。吐く息はどれも、凍てつく空気の中で小さな白い雲になる。

前の人生で、私はあの屋敷で独り、大晦日を過ごした。尚人は、役員たちとのガラパーティーか何かに出かけていた。分...

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