第112章

潮風が吹きつける。

東京湾の奥から押し寄せる塩を含んだ風が、橋脚を叩き続けていた。街灯はない。京浜工業地帯の工場群が遠くに灯りを落とし、この廃桟橋を色褪せたフィルムのように照らしている——輪郭だけがはっきりして、色は何もない。

星野凛は、立ち尽くしていた。

白鳥遥が膝をついている。コンクリートの地面に擦りつけられた膝は破れ、ストッキング越しに血が滲んでいた。高級ブランドのワンピースは泥と汚れで無残に汚れ、丁寧に施されたネイルも半分以上剥がれ落ちている。かつての名媛の面影など、もうどこにもなかった。口に貼られたガムテープの下から、押し殺した泣き声が漏れる。肩が激しく震えていた。

星野寒が...

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