紹介
でも彼は、私が監獄に送られる日まで——ずっと別の女を愛していた。
「お前は悪女だ。一生反省しろ」
そう言い捨てて、彼は去った。
獄中で私は二人の子供を産んだ。
極寒の中で、殴られながら、それでも産んだ。
死にたくなった夜も、何度もあった。
でも——この子たちのために、生き延びた。
五年後、私はあの街に戻ってきた。
カメラを手に、新しい名前で、誰にも気づかれないように。
復讐のリストには、名前がある。
一番上には——彼の名前が。
「離婚してください」
彼の顔が、初めて揺らいだ。
チャプター 1
法廷に静寂が満ちていた。
裁判長が木槌を振り下ろす。乾いた音が、石造りの壁に反響して消えた。
「被告人、星野凛。故意による放火、並びに殺人。犯罪事実は明白、証拠は確実。よって、懲役五年を言い渡す」
その言葉が耳に届いた瞬間、血の気が引いた。
星野凛は膝が震えるのを感じながら、それでも顔を上げた。喉が詰まって、声が出ない。それでも絞り出した。
「私はやっていない。証拠には疑問点だらけで、有罪にできる根拠がない。結城司、あなたまで信じてくれないの——」
傍聴席の前列に座る男を、目が離せなかった。
結城司。数年間、夫として隣にいた男。
返ってきたのは、凍りついた眼差しだけだった。
端正な顔に感情の揺れは一切なく、ただ冷たく見下ろしている。唇がゆっくりと開いた。
「証拠に疑問があるなら、自分で潔白を証明しろ。できないなら、被害者ぶるな」
その言葉が、胸の奥に刺さった。
最初から、信じるつもりなどなかったのだ。
喉の奥で何かが固まって、言葉にならない。弁解も、訴えも、全部、あの目の前で意味をなくした。
刑務官が両腕を掴んだ。冷たい手錠が手首に食い込む。引きずられるように法廷の外へ連れ出されながら、何度も振り返った。
結城司は、もう見ていなかった。
護送車の中は息が詰まるほど狭かった。
隣に座った刑務官が、声を落として言った。
「若いのに人を殺して。刑務所じゃ、そういう奴は可愛がられるぞ」
無視した。
「結城司に会わせろ。今すぐ」
自分でも、声が震えているのが分かった。
あの火事の夜、白鳥遥も現場にいた。結城司が心の底から大切にしている女。なのに遥は無傷で生き残り、結城司の妹は死んだ。そして罪を着せられたのは、自分だった。
なぜ遥を庇う。なぜ疑わない。
答えは出ない。出るはずがなかった。
拘置所の門前に、結城司が立っていた。
黒いスーツ。腕を組んで、影の中に静かに佇んでいる。
護送車から降りた瞬間、目が合った。
抑えていたものが、一気に溢れた。
「火事の現場には疑問点がいくつもある。あなたも分かってるはず。なのになぜ——なぜ私を罪に落とした。なぜ人殺しにした」
声が裏返った。それでも止められなかった。
結城司はゆっくりと近づいてきた。一歩、また一歩。圧迫感が、息の仕方を忘れさせる。
「白鳥遥が目撃している。お前が嫉妬で火をつけた。遥を狙って、結果として妹を殺した。人証がある以上、言い訳は通らない」
また、遥の名前だった。
胸の奥が、すうっと冷えていく感じがした。
言葉を探す間もなく、冷たい指が顎を掴んだ。力が強い。顔を上げさせられ、逃げ場もなく目が合う。
「勘違いするな。お前との結婚は最初から契約だ。情など、一度もなかった」
「——契約」
思わず、そのまま繰り返していた。
数年間、何を信じていたのか。
小さな優しさも、隣に座る時間も、全部、自分が勝手に信じていただけだったのか。白鳥遥の影にも届かなかった、ということか。
指が離れた。
「三日後、星野鋭斗の経済犯罪が判決を迎える。星野家は全員、塀の中に入る」
瞳孔が収縮した。
鋭斗が。星野家が。
「鋭斗は何もしていない。星野商事は——」
「これ以上、話すことはない」
背を向けた。それだけだった。
「待って。待ってください——司!」
手を伸ばした。袖を掴もうとした。
刑務官に両腕を押さえられ、地面を引きずられながら、それでも目だけは追い続けた。
遠ざかる背中。振り返らない。
長年かけて積み上げたものが、音もなく崩れていく。愛情だと思っていたものが、じわじわと別の何かに変わっていくのが分かった。
鉄扉が閉まった。
重い音が、すべてを遮断した。
放火殺人。その噂は、あっという間に舎房中に広まった。
「人殺しが来た」
「自分の嫉妬で人を焼き殺したくせに、よくここで息できるな」
女たちが囲んでくる。全員の目が、敵意で尖っていた。
歯を食いしばって、立っていた。
最初の一撃が飛んできた時、反撃した。でも、多勢に無勢だった。床に叩きつけられ、冷たいコンクリートに頬が当たる。何発も、何発も。
痛みが、どこかで遠くなっていった。
意識が薄れていく中で、ただ一つだけ、はっきりと思った。
——二度と、結城司には会わない。
それから一か月が過ぎた。
雨が続いていた。
結城司は執務室の窓の前に立ち、ネクタイを少し緩めた。ここ数日、妙に落ち着かない。理由は分からない。
ドアが開いた。秘書の顔が青かった。
「結城総、大変なことが」
「話せ」
「星野凛が——昨夜、重篤な感染症で。医療刑務所で処置が間に合わず、亡くなりました」
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父は無実のまま出所し、母は健康を取り戻し、廃人同然だった長兄は再び己の足で歩き出し、残る五人の兄たちもまた紅蓮の導きによって各々の才覚を花開かせ、やがて各界を牽引する大物へと成り上がっていく。
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「どうせ俺から離れられないだろう」
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「今この瞬間から、私の人生から消え失せて!」
初めて焦燥に駆られ、すがりついてくる夫。
その夜、鳴り止まない私のスマホに出たのは、新しい恋人の彼だった。
「知らないのか?」
受話器の向こうで、彼は低く笑った。
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「彼女を出せ!」と激昂する元夫に、彼は冷たく言い放つ。
「それは無理だね」
私の寝顔に優しくキスを落としながら、彼は勝ち誇ったように告げた。
「彼女はクタクタになって、さっき眠ってしまったから」













